014 制圧開始
日没で空が明るさを失うと同時に、それは起きた。
――ドォォォ…………ン!
「何事だっ!?」
服を着ながら慌てて出てきたのは、アレクシスのボスにして
「襲撃されている。首領、早く着替えて武器を」
首領としての顔は立てているが、一度は出し抜いた過去もある上に盗賊団立ち上げ時からの付き合いだ。今更敬語も何もあったもんじゃない。
「ほら敵だお前等っ! とっとと武器持って音のする方へ向かえっ!」
「必ず散っていけよ。固まって動くといい的になるぞ」
迎撃しようと武器を
その間も
「衛兵か? それとも賞金稼ぎか?」
「分からんが……敵は軍人、もしくは軍人上がりだな」
「人数を多く見せる
「そう見せかけている可能性は?」
「……だったら人海戦術でとっくに攻めてきてる」
「さっきから
「てことは……あいつ等は犬死か?」
別に罪悪感があるわけではない。
「人数差は分からないが、一旦裏から……いや駄目だな。多分そっちも気付かれて人なり罠なり仕込んでいる可能性もある」
「おまけにそこから伏兵を送り込むこともできる、な」
実力差を見て『
今後の作戦を考えていると、ふとアレクシスはある疑問を抱いた。
「とりあえず……いや、ちょっと待て。何故ここがばれた?」
「……裏切り者がいやがったのか?」
未だにビビって出遅れた部下達をにらむサンティアゴの肩を
「多分違う。どうやら……連中を舐めていたみたいだ」
おそらくはつけられたのだろう。流れの野盗を
ここ最近では交易路か
「つまり……相手は精々四、五人か」
「おまけに半分は女だ。たしか一人、魔法を使う奴がいたらしいが、使い慣れていないのか途中で打ち止めになってやがったそうだな」
「ああ、だから飛び道具で人数差を減らして……やばい! お前等、
突然のアレクシスの命令に疑問が浮かぶ者もいたが、ガン、と壁を殴って黙らせた。
「おい、どうしたっ!?」
「前から出るぞ、首領。
部下達が裏への抜け道を
「
閉鎖空間では、人数差よりも個人の力量が戦局を左右することが多い。兵力が足りないのであれば、少人数ずつ対応できる状況に持っていく。それが相手の狙いだと、アレクシスは気付いた。
だから裏口を
「そういうことか……お前等早くしろっ!」
裏口を
「いや、首領も早くしてくれ」
「もう準備できてるぞ?」
大太刀を背中に背負い、腰に刀を差すサンティアゴに向けて指を差すと、アレクシスはそれをゆっくりと下に向けた。
「……いいかげん、下
「あ……」
今まで自分が何をやっていたのか忘れない程度には、頭を動かしていて欲しい。
アレクシスは内心そう思いつつも、口にすることはなかった。
「……これも予定通り、っていうのかしらね」
荷馬車を外した三輪電気自動車を運転して廃城の裏に回ってきたシャルロットは、膝元に置いた杖を確認してから、エンジンを始動させた。
ブッチが立てた作戦はアレクシスの予想通りだったが、それは策の一つに
『策は何重にも練っておくものだ』
作戦会議の際、ブッチはこう
『よっぽどの兵力差でもない限り、相手の出方に応じて対処できるようにしておけば簡単に勝てる。だから軍師参謀とかの職業が成り立っているんだよ』
事前に偵察した限り、地下に穴でも掘らなければ、あの廃城に出入り口は二つしかない。しかもシャルロットの役割は裏口を魔法で
「おまけに相手が
本当にその通りになった。
人数差がある相手への対処法の基本は、まとめて相手にしないことだ。そこへ最強の駒を進めれば、後は人数差があろうと関係ない。だから相手は数を活かし、壁や
「
シャルロットは杖を廃城の裏口に向け、呪文を唱えた。
「【
せり上がった土が壁となり、裏口である横穴を
障壁系土属性魔法【大地・障壁】。本来は相手の攻撃を防ぐ為のものだが、先程のように動きを封じるのにも使える。
「もう少し勢いがあれば他にも使い道があるんでしょうけど……こんなものかしらね」
穴を
「遠回りしないといけないから
あまり廃城近くは通れない。
散開されてもいいように、
「まあ、持ち逃げする程
売ったところで一時的な
だからシャルロットは、彼等に手を貸すことにしたのだ。目先ではなく、今後の利益の為に。
「にしてもあれだけの量の火薬を用意しているとか……盗賊達の狙いも、本当はそっちじゃないの?」
無灯火運転なのでおっかなびっくりハンドルを操作しながら、シャルロットは三輪電気自動車を発進させた。
……的を外した推理を口にしながら。
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