第14話 しずやしず......(一)

 翌朝、俺は欠伸をしながら課題に取り組んでいた。


 祭りから帰ってきてから、牛頭さん達にせがんで、地獄見学に連れていってもらった。

 あの時はゆっくり見てる余裕なんて無かったからさ。


 夜中の十二時きっかりに庭の奥の三つ鳥居の真ん中に立つ。と、いきなり光が足元から沸いてきて、俺は地面の中に吸い込まれた。

 で、着いたのは、あの時転がっていた冥府の部屋。大王さまの執務室の控えの間なんだって。

 あの鳥居はいわば冥府直行の期間限定エレベーター。


「お久しぶりです」


 牛頭さん達に連れられていくと、いました、閻魔大王さま。強面のイケメンがゆっくりお茶らしきものを啜っております。


『おぅ、篁の孫か。役目に励んでいるようだな、結構、結構』


 鷹揚に笑う強面イケメン。やっぱりお盆の間は、亡くなった人達が里帰りするんで暇なんだって。

 でも、明けの日は忙しいらしい。


『迷子になる奴もいるし、そのまま脱走しようとする奴もいるからな』


 まぁ一部の人にとっては刑務所みたいなもんだからな。でも、脱走すると脱獄犯よりもっときつい刑罰が待ってるらしい。


「あれ?小野崎先生は?」


『向こうで書類の整理をしとる。会って行くか?』


 俺は首を振った。そう言えば、#平野先生__まさかどさん__#や#菅原先生__てんじんさん__#はいないのね。


『奴らは冥府には来ない。来れないんじゃ』


#平野先生__まさかどさん__#や#菅原先生__てんじんさん__#は死んだとき、周囲に陥れられて怨霊になった。けど、みんなが神様扱いして祀りあげたから、祟りとかすることは無くなったんだけど。


『普通の御霊のように成仏することが出来なくなってしもうたんじゃ』


 神様に祀り上げることは、その『結界』に閉じ込めることなんだって。だからその『本体』はそこから動くことが出来ない。

 初めは怒ってたんだけど、ずっと長い間、みんなが一生懸命、慕ってすがってくる間に魂がキレイになった。でも相変わらず魂の本体は縛られたままなんだって。


『でも、あっちこっちに分社ができて、分け御霊が宿るようになって、奴らはそれを良しと思うようになった』


 元々が世の中のため、人のために尽くしたい人達だったから相当やりがいは感じてるらしい。

 でお盆は、それぞれの故郷に里帰りしてるって。平野先生の平将門は板東に、菅原先生の菅原道真は京都に帰って、家族水入らずしているらしい。いいお父さんしてるのね、二人とも。



 それにしても......


「ねぇ大王さま。なんで篁さんは俺にこだわるの?」


 考えてみれば、篁さんはずっと昔の人だから、子孫だっていっぱいいるよね?


『お前が娘だからじゃ』


 は?


『お前は自分の娘の転生だからな。昔してやれなかったことをしてやりたいんだろ』


 えぇーっ?小野小町って小野篁の娘だったんですか?


 

 大王さまいわく、小町は小野篁さんが、陸奥国に赴任してた時に生まれた娘なんだって。


 お姉さんとふたり、都に引き取られたんだけど、父親の篁さんは色々政変とかあって淡路に流されたり、復帰して都に戻っても仕事が忙しくて、ほとんど娘にかまえなかったんだって。


 そりゃ夜中も冥府で仕事してりゃあねぇ......いったいいつ寝てたんだろ?


『もっとちゃんと見ていてやれれば、前世のお前を不幸にすることも無かったって後悔があるらしくてな......』


 え?前世の俺、不幸だったの?そんな記憶無いけど。


『ことに、お前達姉妹を母親から引き離したことを済まないと思っていたらしい』


 あ、だから今世は親父が単身赴任なの?結構引き摺るのね、前世って。


「やっぱ、俺、篁さんの顔を見ていきます」


 俺の言葉に大王さま、にっこり頷いた。

 んで、顔を出したら篁さんに書類の整理を手伝わされたけど、そんなに嫌じゃなかったな。

 なんか美味しいお菓子も食べさせてもらったし。なんかかんか話してたら、夜明け近くになって急いで帰ってきたんだけど。


 #牛頭__赤__#さん、#馬頭__あお__#さんはみんなの手伝いがあるからって、俺をこの世に戻して、また忙しそうに帰っていった。

 みんな大変だね。




 

 てことで、今日は俺、独りです。水本もバスケ部の合宿だし。


じいちゃん家の居間でのんびり課題してたら眠くなった。


けど、なんか庭の奥に人の気配がする。木の陰に誰か立ってる?


ー見つけた......ー


って男の人......いや同年代くらいの男の子がこっちを見てる。


ん?なんだ?


そっちは山で、道なんか無いんだが?


立って追いかけようとしたら、姿が見えなくなった。


 そのかわりに、表の玄関の方から、さくさく歩いてくる女子の姿が見えた。


「こんにちは、小野くん」


「え?菅生?」


 コンビニの袋を抱きしめてやって来たのは、同級生の女子だった。


「小野君に相談があるの。急いでるんだ......」

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