第12話 夢よりも......(一)

 翌日、篠原と女子二名が昨夜のお礼とお詫びに、ってクッキー焼いて持ってきた。


「あれ?今日は水本君は?」


「透は今日はバスケの練習。来週、試合だろ」


 悪かったな、俺だけで。


「そっかー。コマジ君、応援行くんでしょ?」


 俺はコ・マ・ハ・ル!まぁ点々ついてるから許すけど。


「麦茶、如何ですか?」


 #馬頭__青__#さんが、ボトルとコップをお盆に乗せて顔を出す。気が利くじゃん。


「こんにちは。いらっしゃい」

 

と#牛頭__赤__#さんも庭先から顔を出す。草取りしてくれたの?助かるわ。ばぁちゃん喜ぶよ。


「あ、いただきますぅ~」


途端に女子の目がハートになる。現金だな。ま、#馬頭__青__#さんも#牛頭__赤__#さんもイケメンだもんな。


「コマジ君、親戚の人?」


 はいはい、紹介しますよ。


「じぃちゃんのお弟子さんで、牛尾さんと馬込さん。この家の留守番に来てくれてるんだ」


「あ、そうなんだ~。同級生の篠原です。昨日はありがとうございました」


 篠原、ぺこりん。続いて他の女子もぺこりん。


「菅生です~」


「安達です~」


まぁ迷いそうなヤツばっかだったのね、黒塚。


「初めまして。コマハル君がお世話になってます」


「「「いいぇ~」」」

 

と目がハートな女子三人。世話してんのは俺の方なんですけど。


 ちゃっかり上がり込んで麦茶と煎餅、パクつく女子。


「お兄さん達は大学生ですか~?彼女いるんですか?」


 最近の女子は積極的だな。でも惚れたって無理。イケメンのフリしてるけど、二人とも地獄の鬼なんだから。怖いんだから。

 ほら、笑って誤魔化して。


「で、誰が、コマハル君のカノジョ?」


#牛頭__赤__#さん、違うから。

 

え~!って黄色い声で叫ばれたじゃん。地味に傷つくのよ、このリアクション。


「え?違うの?」


抉るな、#牛頭__赤__#。


「だって~、コマジ君は水本君ひと筋だし~。水本君もコマジ君一筋だし~」



「両想いの邪魔したくないもんね~」


 はあぁ?なんだそりゃ?

 お前ら脳ミソ腐ってんのか?

 腐女子なのか?


「ふざけんなよ、俺と水本は健全な友達。変な誤解すんなよ」


「わかってるよ~。からかっただけ。コマジ君と水本君は幼なじみだもんね」


 よく分かってんじゃん、菅生。

あれ、お前なんか顔色悪くない?


「菅生、なんか元気無いけど?どした」


「実は、相談があって......。でも、今日は水本君いないみたいだから、後でまた来る」


って何だよ?


「だって、コマジ君、歴史苦手じゃん」


 うんうんと相槌を打つふたり。あ、そっち系?そりゃ俺もパスだわ。


「また来るね~」


 と、#牛頭__赤__#さんさん、#馬頭__青__#さんにひとしきりリサーチし終わって帰る女子達。


「気をつけて帰れよ。......あ、しばらく透はこっち来ないかも」


「え、なんで?」


「親父さん、帰ってきてるから」


「そうなんだ~」


 ちょっとだけ残念そうに手を振って女子達は去っていった。


「お父さんがお戻りって......普段はお留守なんですか?」


と#馬頭__青__#さん。


「うん......」


 頷く俺。


 水本ん家は父子家庭だ。

 母親は病気で早くに亡くなって、父ひとり子ひとり。


 なんだけど、水本の父親は建設会社に勤めてて、現場監督で遠くの現場に泊まり込みのことも多い。

 家のお袋が水本の両親と幼なじみの同級生で仲良かったから、水本は幼い頃からよく家に来てた。

 水本の母親が亡くなってからは、親父さんが留守の間は、透はずっと家で面倒みてた。


「ま、兄弟みたいに育ったんだ」


「そうなんですね......」


 透は寂しいと言ったことは無いけれど、きっと寂しいんだと思う。助け出された篠原がお母さんに抱きしめられて泣きじゃくっていた時、じっと見てた。ちょっと軽口は叩いたけど、それからずっと黙ってた。


「ねぇ、#牛頭__赤__#さん.....」  


「ん?」


「お盆には地獄の釜の蓋が開くって本当?」


 俺の問いにふたりは一瞬、顔を見合わせる。


「ご先祖さんとか、亡くなった人が家に帰ってくる日なんでしょ?」


「あぁ、それは本当ですよ。みんな里帰りに行きますね。若い亡者は」


 #馬頭__青__#さんいわく、まだお沙汰の済んでない人や地獄で修行中の人が帰ってくるんだって。


「まだ成仏できずにいる人だけですよ。成仏してたり、転生してる人は帰ってきません」


 なるほどねぇ......。


「透の母さんも帰ってくるのかな?」


と、#馬頭__青__#さんがちょっと不思議な顔をする。


「傍にいるんですけどね」


「えっ?」


 #馬頭__青__#さんによれば、水本の母親は小さな子どもを残して亡くなったので、閻魔大王さまの恩情で、息子の透が一人立ち出来るまで見守っているんだって。

 

「まぁ大王はんの裁量やけどな」


#牛頭__赤__#さんが、言う。


「じゃあ、会おうと思えば会えるの?」


#牛頭__赤__#さんと#馬頭__青__#さんが、顔を見合わせる。冥府の取り決めで、簡単に姿を現してはいけないことになってるんだって。厳し過ぎない?


「会わせてやりたいんだ。会わせてやってくれないか?」


 俺の言葉に難しい顔をするふたり。分かってるんだけど、分かってるんだけどさ。


「まぁ、お盆の時期でしたら、大王さまもお許しくだされるかも。......鎮守さまの協力があれば、ですが」


「土地の氏神さまや。この辺やと天神さんか?」


「そうだね。お詣り行けばいいの?」


「そうですね......でも気難しい方ですからねぇ」


#馬頭__青__#さん、溜め息。


...と庭先の方から、誰かの声。


「許す」


へ?......あれ?菅原先生。どしたの?


「小野も水本も友達想いだからな、今回は特別だ」


あの.......まさかと思いますが......菅原先生って......。


「菅原道真公、天神さまじゃ。分け御霊やけどな」


えぇーーーーーーっ?

でも、なんでうちの学校に?


「土地の若者を見守るのがワシの役目じゃ。夏祭りの日に水本と社に来るがいい」


 本当に真面目だね、菅原先生。

でも、有り難う。優しいとこあるんだ。



「その代わり、来学期から遅刻、夜遊び厳禁な。......試験は九十点目指せ」


 え、マジですか?

 風紀担当、そこにもってきますか!?


 あわあわする俺を尻目にさっさと帰っていく#菅原先生__てんじんさま__#。


 

 でも、ホントうちの学校ってナニ?



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