ラズベリーパイ 南口営業所行き 短編集

江戸 清水

アイツなんて大っ嫌い

 私は社会人になって以来の久々の休み、地元に帰ってきた。中学時代の幼馴染と会うため南口営業所行きのバスに乗る。

このバス停にいるとアイツを思い出す。小学校も塾も中学も一緒だったアイツ。


小学校3年の冬


バレンタインが近づく2月のある日。

学校の帰り道、細い歩道の坂道

珍しく長く降り続いた雪が積もっていた。


女子数人で面白がって雪を丸め、前を歩く同じクラスの男子たちに雪の球を投げつけた。


そのうちの一つがアイツにぶつかった。


頭は見事に雪まみれになり、私たちは大笑いした。

ほんのいたずらだった。


振り返ったアイツは頭を振って雪を落としながら、こちらをにらみつける

「何すんだよ!誰だよ 俺にあてたの!!」


その日以来アイツは私だけを無視した。

無視され続けた。4年になっても。

皮肉なことに3年、4年はクラス替えがなく、アイツの取り巻きの男子たちをはじめ、一緒にあの日、雪玉を投げた女子にまで無視された。


おかげで私の4年は小学校で一番暗い楽しくない時期になった。

たかが雪まみれにされただけでどうしてあんなに怒るのか。


いつの間にか理由など関係なく、無視することに喜びを感じる者たちにより私はすっかり元の明るさを失った。


そんなある日、しくしく泣く私をかばって一人の少年が声を上げた。


「もうやめてあげてよ!」


彼の目は真剣そのもだった。

私は今でもあの顔は忘れない。


アイツは私の方をちらっと見るも目線を下に落とし、知らんぷりをした。



次第にほかの友達もでき、なんだかんだで楽しくは過ごせるようになる。

みんなも、あほらしくなったのかアイツには構わず、いつも通りの時が流れた。


高学年になり、私が通いだした塾にはアイツがいた。このバス停に迎えに来る塾のバスに乗る。


「ほら 食べる?」

飴を手に私に差し出したのはアイツ


「いらない」


ちょっと困った様子でアイツは後ろの席へ戻った。





中学に入り、ほかの小学校からの生徒も入学し6クラスもあったのでアイツとは同じクラスにならなかった。


廊下ですれ違うも、目だけあう。

私は絶対にあいさつしなかった。


それでもアイツはたまに声をかけて来る。

「夏祭りさ、6人ぐらいで一緒に行くんだけど、行かない?」

「行かない」


私は他の子たちと地元の夏祭りへ行った。

あちらこちらで賑やかに話す人たち。毎日学校で会うくせに浴衣姿でテンションが上がりみんな、久しぶりの再会のような声を上げる。


私も一応は浴衣で行った。紺色の朝顔の小学校の高学年で着ていた古いやつ。

浴衣のみあげを母が直してくれた。


「お なかなか似合うね」

振りかえればアイツがいた。

いつの間にそんなキザな言い方するようになったのか。

「そう?ありがとう」


それだけ言って去ろうとしたら、アイツの持ってたかき氷とぶつかり

私の浴衣はいちごシロップと氷で濡れた。


「あ ごめん」

「いいよ わざとじゃないんだし」


本当は、雪とかき氷でやっとオアイコでしょ!って言いたかったけど、時が経ちすぎてそんなことは言えなかった。





中学3年 卒業式


 第二ボタン 第二ボタン 第二ボタンとトレジャーハンターのようにモテる男子のボタンを片っ端から集めるコレクターまで登場した。


私たちの学校は古風な学ランの制服だった。


私には無縁な第二ボタンとやら。

そんな私に走り寄ってきたのはアイツ


「これ.....貰ってほしい」

アイツが手に乗せていたのは飴ではなく、第二ボタンだった。


いらない!ってまた言ってやろうと思ったけど、

「......ありがとう」


私は受け取った。


小3のバレンタイン本当はアイツにチョコを用意してた私。

渡せなかったチョコはお父さんにあげた。


恋ってどうして素直になれないんだろう......。











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