第13話 鏡子

「はあ、面倒な事になったわ」


 自室に戻った鏡子はぼやいた。

 巫女として帝に仕えているが、最終的には皇后となり、権力を掌握するのが鏡子の野望だった。巫女になったのはそのための手段だ。


「遷都先を探さないと」


 鏡子は地図を見て探し始める。

 占いとは言ったが、実際には鏡子に占いの能力は無い。

 自分の力になってくれる一族や有力者が有利になるような事を占いの結果として勧め、自分の障害になる人物には、災いをもたらす存在だと言って遠ざけてきた。

 こうして着々と地位を固めてきた鏡子だった。


「しかし、陛下は呉羽の事をまだ思っているようね」


 占いでは無く、実地を見て記録を元に冷静に政を行うべきだと主張する呉羽は、占いと書して自分に有利な政策を進める鏡子にとって邪魔な存在だった。

 頭が良いだけで無く、容姿端麗でもあり、帝の心を動かし妃候補に挙がってしまった。

 強力なライバルの存在を許しておく訳にはいかず、鏡子は呉羽が呪いを掛けていたと嘘の証拠を作り上げ、死刑にしようとした。

 しかし帝の助命もあり、科野の国への流罪に減刑された。

 都から追放したものの、助命を出すほどに帝の心は呉羽に惹かれている。

 なんとしても妃になりたい鏡子にとってゆゆしき事態だった。


「うん? 科野の国からの報告書。どうしたのかしら」


 呉羽の動向が気になる鏡子は、科野の国から呉羽の様子を報告するように命じている。

 だが科野の国へ向かう途中、鬼に襲われたと聞いて安堵していた。


「もう必要ないのに。それとも死体が見つかったのかしら」


 鬼に掠われたとあれば殺されたのでは無いかと思っていた。


「な、なんんですって。生きていた」


 だがそれは呉羽の生存を知らせるものだった。


「しかも、鬼を従え翡翠や瑪瑙、他にも様々な産物を見つけ出しているですって!」


 鬼――力寿丸と山の中で暮らすなど想定外だった。

 しかも山で希少な産物を生み出し科野の国に富をもたらしているとあれば、尚更脅威だった。


「な、なんとかしなくては」


 鏡子は焦り始めた。

 呉羽が再び力を付けようとしていた。

 翡翠や瑪瑙は玉とされ、持ち主の徳によって色を変えるといわれている。

 特に黄色の玉は統治者の玉とされている。

 見つかってしまったら、もし帝に献上されてしまったら、徳を重視する帝はさらに呉羽に入れ込み、妃にしてしまうかもしれない。


「あーっ、遷都のこともあるのに」


 そこまで言ったとき、鏡子の頭の中にひらめく物があった。


「そうだ。みんな纏めて解決してしまいましょう」

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