第24話 生き恥
自身の二つ名を呼ばれたエリザベスは眉根を寄せ、応える。
「その名前は好きじゃないの、2度と呼ばないで」
今にも逃げ出しそうなほどエリザベスに怯えるアヒムは、開いた口を閉じることなくコクコクとただ何度も頷いていた。
(こんなマジなエリザは初めてだ。それに〈暴虐の姫〉ってのはなんだ?あのエリザが暴虐?)
アルヴィスは色々と疑問に思うことがあったが、今はとても聞けるような雰囲気ではない。そのかわり、エリザベス乱入でおかしくなってしまった空気を直しおさめる為、彼女とアヒムの間に割り込むように移動し、同時に2人の視線も自身へ向けさせることで意識を逸らさせた。
「ちょっとアルくん!?」
「ひっ――!?」
突然自分たちの目の前に移動してきたアルヴィスに、エリザベスはアヒムとまだやる気なのではと驚き、アヒムにいたっては恐怖の追い討ちになっただけであった。
「あーなんだ、あれだ。俺が2人を止めるのもおかしな話だけど、もうここらでいいだろ? エリザベスも、な? そんな物騒な炎ものしまえって」
アルヴィスは少しでも場の空気を和ませようとおどけた風に言い、エリザベスには宥なだめるように言った。
「ぶっ、物騒って!? 私そんな怖くないもん! アルくんのバカ!」
アルヴィスの言葉にエリザベスは顔を赤くし恥ずかしがってそっぽを向いてしまった。その姿は思春期の乙女そのものだった。
「お前ももういいだろう? そんな醜態を晒した後でもまだ俺とやるつもりか? ――な? もうその辺にしとけよ?」
最後はほとんど脅すように凄味をきかせ、尚且つ魔力を軽く放出している。
アルヴィスの最終警告とも取れる提案をアヒムは無言で受け入れた。
よろけながらも自力で立ち上がり、ゆっくりとだが演習場を出ていこうと歩き出す。その目にはもはや戦意など一切なく、焦点すら定まっていないようにも見える。まるで心が抜けてしまった人形のようだ。
あれだけプライドの高かった男だ、練りに練った作戦、自慢のサーヴァント、貴族として、そして学年序列10位としての自信が一瞬にして砕かれ、さらには数百人の生徒の面前での失禁。その数には当然他の貴族も含まれる。
一夜にして彼は学院で、いや、この王都に貴族として、1人の魔法師として生き恥をさらしながら生きていくことになってしまったのだ。
アヒムが演習場を出るとき、出入り口の側壁に寄りかかりながら観戦していたらしいアンヴィエッタとすれ違うが素通りで、彼女からも声を掛けることはなかった。
そしてアンヴィエッタはアヒムが立ち去るのを横目で見送ると、観戦席に残る学生達に寮へ戻ることを叫び指示しだした。
だが決着があまりにもあっけなく一瞬で終わったためか、学生達からは ブーイングの嵐だ。
そんな学生たちにアンヴィエッタは「いいから帰らんかぁァァっ!!」と一喝。これにはさすがに大群となっていても学生たちは怖いようで、一目散に演習場を出始めた。
あっという間に観戦者達が消えガランとした演習場には、アルヴィスとエリザベスの2人きりとなった。アンヴィエッタもどうやら寮生たちと帰ったみたいだった。寮長の責任として見送り届ける役目があったのだろう。
そうして決闘騒動が収まると、エリザベスはアルヴィスへ向き直り怒っているのか少し険しい顔で近付いてきた。
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