第18話 代表者
講義棟を出ると外はすっかり日も暮れ薄暗くなっていた。
アルヴィスはもうこんな時間かと寮への帰路を足早に行く。寮内の食堂はバイキング形式なので早めに食事に行かないと折角の御馳走が冷めてしまうし、何より寮には全学年が住んでいる。1寮だけでも1000人以上も生徒がいるのだから人気料理からどんどん無くなってしまうのだ。
寮の玄関の灯りが見えてきた頃、アルヴィスは多数の生徒が玄関を入ってすぐのロビーに集まっていることに気が付く。
何事かと生徒を掻き分け上手く前列に割り込むと、掲示板に1枚の紙が貼ってあった。
「えーと、今年の新人戦1寮代表者を以下の2名とする。あー例のやつか。――ロベルト・シルヴァ」
(やっぱり首席のロベルトをアンヴィエッタ先生が外すわけないよな。つかあいつシルヴァって苗字なのか)
そしてロベルトの下にはもう1名の生徒の名が記されている。
(アルヴィス・レイン――)
「っしゃーオラーっ!」
アルヴィスは自身の名前だと解ると最後まで読まずにガッツポーズをあげた。
「うわっ!? なんだこいつ!?」
「いきなりどうしたの!?」
周りの男女の生徒達がアルヴィスの奇行ともいえる行動にざわつく。だがアルヴィスにはそんなことはどうでもよかった。
これでやっと始められる、と。
「先生! これはいったいどういうことですか!」
と、そこに内心ほくそ笑むアルヴィスとは正反対の顔をした1人の男子生徒の叫ぶ声が聞こえてきた。
聞き耳をたててみるとどうやら抗議をしているみたいだ。恐らくアルヴィスに代表の座を取られた序列上位の者であろう。
アルヴィスは発生源である男子生徒とその相手――
「よう、アンヴィエッタ先生。さっき振りですね」
アンヴィエッタのもとへと向かった。
「教授である私にむかってようとは何だようとは。口の聞き方も学んでいないのかね?」
アンヴィエッタは言葉こそ怒っているように言うが、表情はさしてその様には見えない。
大勢の生徒の前だ、教授としての威厳を保つ為であろう。そのことを意として察しているのかどうかは分からないが、アルヴィスは悪びれることなく話を続けた。
「先生達の話を悪いけど聞かせてもらったんだけど、何だよ? 納得がいかないなら直接俺に言えばいいだろ?」
アルヴィスはアンヴィエッタに話している途中、ターゲットを変えたかのように彼女の隣に立つ男子生徒に鋭い目付きで話し掛けた。
男子生徒はアルヴィスの突然の変化に一瞬たじろぐも、そこはさすが名門学院生だけあってか気丈に振る舞い話す。
「僕は序列10位にして子爵バルドゥル家次期当主、アヒム・バルドゥルだ! 君か? レインズワースというのは。君の新人戦参加に異議をとなえているんだ! 邪魔をするな!」
胸に片手を当て名を名乗る彼は、アンヴィエッタの目にアルヴィスが止まらなければロベルトと同じく代表者になっていたはずの序列10位だった。
「アヒムも坊やが倒したロキと同じくDランク、序列こそロキが上だが実力は差ほど変わらん実力者だ。Fランクの坊やより勿論格上だが――」
「ちょ、ちょっと待ってくれアンヴィエッタ先生!」
「ん? 何だね急に? 私の話を遮るなど坊やのくせに生意気――」
「今俺のこと何て言った!?」
「続けて遮るなど本当に生意気だぞ坊や」
「生意気なのは謝る! でもこれは直らねぇ! そこよりももっと前だ! 俺を何ランクって――」
「Fランクだが? そんな分かりきっていることを今さらなんだというのだね?」
アンヴィエッタはあまりのアルヴィスの慌てように少々驚きつつ眼鏡を直す。
「俺はランク戦に出てねェー!」
「だからなんだね?」
「ランク戦に出なきゃランク無しじゃないのか!?」
「なッ!? ……はぁ……。そんなことも解っていない馬鹿だったとは……」
アンヴィエッタは頭を抱え左右に振る。
「自分の現状も解っていない馬鹿を私は代表者にしたのか……――よく聞け〈最下位ワーストワン〉! ランク無しまたはGランクと呼ばれる者達は魔法師と認められていないだけだ。だが君はどうだね? この魔術学院に入学した魔法師だ。わかるかい? 魔法師なんだよ。つまり魔法師として既に認められているんだ。ということはどういうことかさすがに〈最下位〉でもわかるな? んん?」
「……F……ランク……」
「そういうことだ。Fランクは魔法師として認められればランク戦に出る必要性なんてないんだ。あれは後天的に魔法に目覚めたり、もしくはあまりに早く目覚めた者達――イレギュラーの為のものだ」
(君には本当に毎度驚かされるぞ坊や。落差がありすぎてホントにただの〈最下位〉なのか化け物なのかいまだにわからなくなる)
アンヴィエッタが困り顔でアルヴィスを見ていると、隣で呆気に取られていたアヒムが我に返り話す。
「そんなことより僕の話はどうなるんですか! 僕は納得がいきません!」
さすがのアンヴィエッタも話の脱線ぷりに完全にアヒムの存在を忘れていたらしく、申し訳なさそうに話を戻した。
「アヒム、先程から言っているがこれはもう決定事項なんだ。悪いが諦めてくれ」
「新人戦には多くの貴族が観に来ます。もちろんうちもです。簡単には諦めきれません!」
「と言われてもだな」
「仮にこいつが辞退、もしくは出場が出来ないことになったらどうなりますか?」
「それは候補者だった君になるだろうな、アヒム」
「そうですか……。それさえ分かれば今日のところは引き下がります。失礼します、アンヴィエッタ教授」
一礼したアヒムは人混みを掻き分け自室がある2階へと向かっていった。
彼の姿が見えなくなったことを確認すると、アンヴィエッタは視線は変えずに顔だけアルヴィスに向けると溜め息を1つ吐いてから話し出した。
「気を付けろよ坊や。彼は確実に君を狙ってくるぞ?」
「だろうな」
随分軽く受け答えたアルヴィスに少し驚き、アンヴィエッタは視線を彼へと向けると――
(おいおい、身の危険が迫っているというのにそうくるか)
アルヴィスは上等とばかりに笑っていた。
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