第14話 提案と同意
「同棲、ですか?」
友人に貸した金が戻ってこないため、金欠状態となった優里亜さん。
彼女の提案はほぼ予想通りのものであったが、彼女の口から提案を伝えられるまで、その予想を認められなかった。
出会った間もないというのに、すでに信頼を失いかけている。変態扱いを避けられないところまで早々にきてしまった。
そんな俺と同棲など、これまでのことを踏まえれば不自然極まりない。筋が通らない。それでも、さきほどの流れからすれば、同棲の類いで間違いないだろう。
「そうそう。いいアイデアじゃないかしら」
「合理的かもしれませんが、優里亜さんはそれで納得しているんですか」
「どういうこと?」
「同棲ってことは、同じ部屋で過ごすのはともかく、夜も同じ部屋で寝るってことじゃないですか」
「晴翔君、私が君を変態と呼びたくなる
「うっ……!」
負のスパイラルに片足をつっこんでいる。変態と認識されたことをきっかけに、どう動こうと、その汚名を返上できることはなく、逆に強調させてしまっている。
むろん、いまのはよくなかった。
「それはそうと、本当に優里亜さんはそれでいいんですか。わざわざ僕の部屋を選ばなくても、他の友人の家に転がりこむとか」
「高校までの友達は、みんな遠くにいるからね」
「それじゃあ、大学には?」
「ほぼ彼氏持ち。お熱いふたりと同じ屋根の下で暮らすこと、晴翔君はできるかしら?」
「どう考えても無理ですね」
優里亜さんの友人、か。類は友を呼ぶというから、似通ったタイプが多いのだろう。優里亜さんは美人だから、友人もまた然りなのだろう。ほとんど彼氏持ちということにも納得できる。
そういえば、優里亜さんって彼氏とかって……。
やめよう。考えても仕方のないことだ。そもそも、もしいるとすれば、彼氏さんの家に同棲させてもらえているはずだ。
ここで下手をすれば、優里亜さんにとって思い出したくないような男性関係が掘り起こされ、優里亜さんを傷つけることになってしまうかもしれない。
「ちなみにいまはフリーだからね? ずいぶん前に破局して、それからずーっと」
「わぁ、ざっくばらんだ」
「だって、もう過去のことじゃん? 男性関係にはピリオドを打ったけど、金銭トラブルはいまも尾を引いているわけだ」
今を生きる大学生、初川優里亜である。
「うーん、たしかに。一大事ですね」
「うわぁ、晴翔くんひどいよぉ。棒読みぃ〜。さては他人事だと思ってるね?」
「そんなことありませんって! 僕はそんな冷淡じゃないですし、それに、生活が一変するとなれば!」
「真剣になりすぎだよ、晴翔くーん? そうやって必死になってる表情、かわいいな〜っ」
そういって、晴れやかな笑みをみせる優里亜さん。流れるような黒髪が揺れ、甘く透き通った匂いがたゆたう。
洗練されたアップトーンの口調、表情、仕草。こういったことに慣れていないせいか、つい頬が上がり、いやらしい表情となってしまいそうだ。この衝動を抑えなければ。
「顔真っ赤だよ? もしかして、ちょっとドキッとした?」
感情を押し殺そうと抗っていたが、優里亜さんにはお見通しだったらしい。
自分より大人で、知らないことをたくさん知っている。からかわれるたびに思う。すべてを見透かされているのではないか、と。そして、大人らしさを感じる挙動。素晴らしい。
年上好き自分は、こういったところをしばしば意識してしまい、たまらないと思う。
「し、してません! きっとエアコンの温度調節をミスって暑いだけです!」
「ふーん。さっきまでは全然平気そうだったのに、たった数秒で暑くなっちゃったんだぁ〜。そういうところ、嫌いじゃないよ」
視線を合わせられそうにない。背をむけ、呼吸を整える。平常心でリラックス。深呼吸だ深呼吸。
「やっぱり、晴翔くんは変態さんなんだね?」
「違うと信じたいです」
「なるほど。きっと、晴翔くんは別の惑星から来た宇宙人なんだ。変態の概念が地球とは違うんだ。きっとそうだね」
「優里亜さんの思考回路は絡まったコンセントなんですかね」
「それって君の惑星だと褒め言葉なのかな?」
「僕は宇宙人じゃありません!」
さきほどのモノローグに誤りがあった。度を越えたからかい。それはうれしくないっ! 訂正して自分に対してお詫び申し上げる。
「まあ、宇宙人じゃなくても君は変態さんだよ? 行動には気をつけてね?」
「そんな評価の人間と同棲するなんて大丈夫でしょうか」
「君には絶大な監視の目がついているからね。変なことをしたらすぐに一介の死体ができあがるんじゃない?」
「あいつですか……」
冴海ちゃんだ。ヤンデレ属性の具現化で、「なの」が口癖の、仲が良い後輩である。
「まともに過ごさざるをえないと」
「健全にね」
「心得ています」
「……さてと。同棲で懸念するのは晴翔くんの欲求関連だけど、そこはどうしようもなさそうだし、決定でいいかな?」
「やや不本意ですがオーケーです」
かくして、お隣さんは晴れて同棲相手となったのである。
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