第44話 欠落した蜘蛛③

2日後、ロック・ティナ・ブリッドの3人は馬車に乗ってアラートフの町を旅立った。


御者はブリット。


馬車はバルキア帝国へ向かって走る。



1日目。


襲撃はなかった。


道中で野宿をしたのだが、テントは女性用、男性用の2つを準備した。


「レディは丁重に扱わないとね。」


というブリットの発案だ。


(そうだけどさ…。一緒に寝ても何もないんだけど、さ…。)


その配慮にロックがモヤモヤしていたことはいうまでもない。



2日目。


半日ほど走ったところで、動きがあった。


「…来ました。」


【気配察知】スキルを広範囲で発動していたブリットが小声で2人に伝えた。



「おい!そこの馬車、止まれ〜!!」


いかにも盗賊、といったいでたちの男たちが馬車を囲んだ。


その数、十数人。



ブリットが馬車を止める。


「な、なんですか!?

 あなたたちは!?」


「見ての通り、盗賊だ。

 有り金と金目のものよこせば、命だけは助けてやる。」


「本当に手は出さないんですね!?」


「ああ。

 お?そこのお嬢ちゃんはえらいきれいだな〜…!

 一緒に連れて行くか…!」


「もし彼女にまで危害を加えるというなら、黙ってやられはしません。

 僕たちも全員D級冒険者。

 そちらもただではすみませんよ。」


ブリッドが鋭い眼光でリーダー格の男を睨む。


ロックも腰の剣に手をかける。


「ふん。

 まあいい、金をよこしな。

 あ、金額はわかってるからな。

 誤魔化そうとすんじゃねえぞ。」


「ロックさん、仕方ないです。

 お金を渡してください…。」


「命にはかえられませんからね。」


ロックはお金の入った袋を盗賊に投げて渡す。


「おお〜!

 大金だぜ…!

 

 しょうがねえから命は助けてやる。

 じゃあな!」



盗賊たちは引き上げていった。


3人は馬車で来た道を引き返した。


そして途中で停車した。



「そろそろだね。

 行こう。」



ブリットの【気配察知】の範囲ギリギリになったところで、尾行開始。


相手は馬での移動だったので、こちらも馬車の馬にそれぞれ乗り込んだ。



走ること数時間。


「どうやら着いたようだ。

 他の盗賊の気配もする。


 もう少しだけ近づいて、隠れ家を確認したら帰ろう。」


3人は馬を木に繋いで、静かに近づいた。



「あの穴が入り口かしら?」


盗賊たちは山の洞窟を隠れ家にしているようだ。


「ブリットさん、あの中に気配は感じますか?」


「うん。

 かなりたくさんの気配を感じる。

 隠れ家で間違いなさそうだ。


 よし、一旦町に帰ろう。」


「「はい。」」


ロックとティナが戻ろうと振り返った時。



「へっへっへ。」



木陰から何人もの盗賊が現れた。


「いつの間に!?」


ブリッドは【気配察知】を使っていたにもかかわらず、囲まれたことに驚いている。


「お金をくれた上に、わざわざ始末されてきてくれてありがとよ。」


ロックは覚悟を決めた。


「悪いけど、そう簡単にやられないよ。」


「知ってるよ。」


「なに!?」


「D級冒険者だけど、B級モンスター狩ってくるくれえだもんな〜。

 さぞ腕に自信があるんだろうよ。」


「なぜそれを…!?」


「まあ、強い冒険者と戦って俺らも無駄に死にたくはねえからな。

 お前らの始末はボスが直々にしてくれるってよ。」



盗賊たちの後ろから、煌びやかな服を身につけた、しかし、醜悪な表情の男が現れた。


「ふっふっふ。

 君たちが噂の冒険者か。

 わしらのために稼いでくれてありがとう。」


「何言ってるんだ!

 マークさんやたくさんの人を傷つけて…、許さないぞ!」


「ロックさん。」


ロックを制して、ブリッドが前に出る。


「目の前に現れてくれて、好都合だ。」


盗賊のボスに歩み寄るブリッド。


「ブリッドさん!

 離れてください!」


しかし、そのまま近づくブリッド。


ニヤニヤしている盗賊のボス。



手が届く距離まで近づき、ブリッドが止まった。


そしてロックたちを振り返り、微笑んだ。


それから再び盗賊のボスを見て…、






何かを手渡した。



「よくやった。

 ブリッド!」

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