第35話 ゴルド家の事情
ゴルド家での夜は、とても楽しい時間だった。
ロックとティナは報奨金が入ったので、宿泊代や食費を払おうとしたが、ゴルドとダニスは受け取らなかった。
「大丈夫だ。
今回の依頼でも、おめえたちより稼いだからな。」
ニヤリと笑いながら、そう言って。
フォーレン王国へ行くための相談もした。
別の大陸にあり、世界を半周することになる旅。
馬車を乗り継いで行くのだが、出発はバルキア帝国の首都がいいとのことだった。
2人にとっては帰りたくない場所だが、それ以外だとかなり遠回りになる。
世界一の大都市であるため、顔見知りと遭遇する可能性はかなり低い。
しかし、ロックはスキル5つ持ちという世界でも数少ない存在。
それなりに知名度がある為、顔を見られにくいよう、深めのフード付きのマントを羽織っていくことにした。
ゴルドによれば、到着するまでレベルはほとんど上げられないだろう、ということだった。
この世界では、モンスターが生息域外に出ることはほとんどない。
稀にはぐれモンスターが襲ってくるが、低レベル帯のものがほとんどだ。
安全だが、経験値を得る機会もない、ということだ。
フォーレン王国に行くまでに、モンスター生息域は3ヶ所あるらしい。
そして、フォーレン王国に2ヶ所。
もしレベル上げをするなら、この大陸の東端、シークという国か、フォーレン王国を勧められた。
他の2ヶ所は馬車のルートから遠いためだ。
シークは世界で唯一の港町がある国。
15年以上前までは世界各地に港があったのだが、海にモンスターが生息しはじめ、船を出せなくなったのだ。
水中にいるモンスター相手では、まともに戦うことは難しい。
また、船を守り切ることが不可能なため、沈没してしまう。
ただ、シークとフォーレン王国間の海峡は距離が短く、さらにモンスター避けの対応がされているらしい。
詳しくは知らされていないらしいが。
問題は、旅の費用。
ゴルドとダニスは細かく教えてくれた。
フォーレン王国までは、馬車を最短で乗り継いで160日ほど。
1日あたりの馬車の費用は1人10,000ゴル。
途中何度も町に立ち寄るので、その際の宿泊費もいる。
相場は大体8,000ゴルだが、宿泊者が多いと高くなる場合もある。
フォーレンまで15ヶ所の街を経由する。
食費は1日1人2,000ゴル程度。
日持ちするものは美味しくない代わりに金額は控えめらしい。
ざっと計算して、
馬車代:320万ゴル(2人で20,000ゴル×160日)
宿泊費:30万ゴル(2人で余裕を見て20,000×15ヶ所)
食費:58万ゴル(2人で4000ゴル×145日 ※宿に泊まる日以外)
合計:408万ゴル
その他の雑費や不測の事態に備えて500万ゴルは欲しいところだ。
「ご、ごひゃくまんごる…。」
2人は目が回りそうになった。
「出兵の時は国がら費用が出るがらな〜。
個人で行ぐにはながなが辛いべな。」
「あんだ、それぐらいだしでやれ〜!
…っでいいだいどこだが、それは自分たぢでやらねばな。」
「はい。
ゴルドさん、エシアドの崖で稼ぎやすいモンスターはいますか?」
「う〜ん。
報奨金や素材買取金はBランクがら跳ね上がるんだべよ。
それまでは似だり寄っだりだな〜…。」
「そうですか…。
Dランクをたくさん狩っても、持ち帰れないんですよね…。
かといって毎回持って帰るとなると、どれだけかかるかわかりませんし…。」
「特殊個体の討伐依頼だどしでも1.5倍にしがならねえがらな〜。」
ダニスさんも冒険者について詳しいようだ。
「…よし、特別サービスだべ。
毎日馬車をエシアドの崖まで往復させる。
それに狩っだ獲物を載せろ。」
「え!?
…ゴルドさん、これ以上ご迷惑おかけできません…。」
「乗りかかった船だべよ。
そんかわり、苦しいこどあっでも途中で投げ出さないこどと、死なないこど約束しでくれ。」
「ゴルドさん…。」
そこまでお世話になることに踏ん切りがつかないロックとティナ。
ダニスさんが口を開いた。
「おめえたぢに、死んだ息子を重ねでるだよ。」
「…!
息子さん…、亡くなられてたんですね…。」
「あんだ、言っでながったんだべな。
息子は冒険者になっでしばらぐして家を出たんだ。
16歳だっだな。
B級までトントンっと強ぐなっで、もうちょっとでA級さなりそうだったんだと。
そごで出兵要請があっでね。
魔族と戦っで、死んじまったみたいだ。」
「そう…、だったんですね…。」
ゴルドが拳を握りしめて、絞り出すよう声で言った。
「正直いうと、おらも魔王をぶっ潰しでやりでえ。
でも、そんだけの力もねえし、魔王がいなぐなったあどの責任も取れねえ。
こごだけの話、おめえらに期待しぢまってんだ。
卑怯だとわがってるだ。
その後ろめださを誤魔化すために、おめえらにおせっがいしでんのかもしんねえ。」
「…ゴルドさん、僕たち、きっとなんとかします。
魔王を倒しちゃダメでも、他の方法を考えます。
ゴルドさんとダニスさんの気持ちも一緒に持っていきますから。」
「ロッグ…。」
「それに、死ななようにがんばります。
ちゃんとお2人に報告しなきゃいけませんから。」
「ティナ…。」
「…ありがどな。」
こうしてゴルド夫妻の協力のもと、500万ゴルを稼ぐことになった2人だった。
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