エルフ、水を手に入れる

「しかし、このヨタの木の実……どのくらいで木に育つんで?」

「ああ。育てるだけなら私の魔法ですぐに木になる」

「ん?」

「ん?」


 思わず聞き返すハナコと、それにたいして聞き返すレイシェント。


「旦那の魔法……ですかい?」

「ああ。まあ、精霊魔法だな。魔法での急速育成は正しい育ち方ではないから、あまり良くはないんだが……材木用だしな」


 ハナコはその言葉の意味を頭の中でかみ砕くと……「おお」と声をあげる。


「旦那ァ……そんな魔法、使えたんですな」

「ああ、使えるとも。これで家の問題は解決だろう?」

「まあ、そうですな。あとは木を材木にするための刃物をどっから調達するかですが……」

「刃物」

「ええ、刃物です。もしかして旦那の魔法でどうにかできやすかい?」

「風の精霊に頼めば出来ると思うが……うーん」


 言いながら、レイシェントはちらりと空を見上げる。


「この辺りの風の精霊に頼むと、何もかも真っ二つにしそうなのが怖いな」

「あー……雑なんですな」


 折角木を手に入れても、材木ではなく焚き木にされてはたまらない。

 とはいえ、刃物を手に入れるとなると……。


「うーむ。まあ、ちゃんと頼めばやってくれる……とは思う」

「現状それしかない以上は、仕方ないですな」

「ああ。とりあえず、何処で木を育てるか……」

「水さえどうにかなるなら、此処でもいいんですがね」

「そうか。ならどうにかしよう」

「なるんですかい?」


 今日は驚かされてばかりだ、と。そんな事を思いながら聞くハナコにレイシェントは自信満々に頷く。


「なるとも。要は継続的に飲用に適する水が手に入ればいいのだろう?」

「まあ、そうですな。まさか水の精霊に頼むんですかい?」

「そうだな。水と土の精霊に頼もうと思う」

「それって、まさか」


 レイシェントが何をしようとしているか思い当たったハナコに、レイシェントは笑う。


「……エルフの村にあった井戸、どうやって掘ったと思っているんだ?」


 それはハナコには衝撃であった。エルフなんて生活能力ゼロのダメエルフの集団だと思ってたのに、まさかそんな便利な能力を有していたとは。

 いや、結局精霊頼みだから本体はダメエルフなのは変わりないのかもしれないが……。


「すげえや、旦那。どうやってエルフが村作ってんのかって疑問が解けやしたぜ」

「君がエルフをどう思ってるのかよく分かった……」


 言いながらもレイシェントは精霊に呼びかけ始める。


「ハクメイの森のレイシェントが土と水の精霊に願う……え? 何? えーと……いや、ああ。言う通りかと……しかしそうなると何と言えば……ええ? いいのか?」

「どうしたんですかい、旦那?」

「知らない土地の名前なんか出すんじゃねえ、だそうだ」

「ええ……精霊魔法ってそういうもんなんですかい?」

「いや、聞いたこともないが……まあ、この辺りのルールなんだろうな」


 意外とめんどくせえな精霊魔法、とハナコが考えていると……レイシェントは「どうしたものか」と悩み始める。


「それで、だな。この辺りには名前ついてないから、どうせなら名前つけろ……だそうだ」

「暗黒大陸じゃダメなんですかい?」

「ダメだそうだ」

「ふーむ……」

 

 土地の名付け。中々に責任重大な話ではある。

 勝手に呼ぶだけならまだしも、精霊にそれで周知されてしまうのだ。

 下手な名前はつけられない。


「よし、決まりだ!」

「へ?」

「ハント平原……これだな!」

「ハント? 旦那、それって」

「ハナコから一文字、あとは私の名だな。ハナコの名を先に持ってきたのは私なりの敬意だ」

「いや、ちょい。それはハズイのでちと待って……」

「おお、精霊も気に入ってくれたぞ!」


 精霊魔法など使えないハナコにも分かる程に明滅する精霊らしき何かの光。

 それが喜びの表現であろうことはなんとなく分かってしまうが故に…・・・。


「は、はは……そいつはよかった……」


 顔をヒクつかせながらも、ハナコはそう言うしかない。


「よーし、ハント平原のレイシェントが土と水の精霊に願う! この地に渇きを癒す水をもたらし給え!」

「う、うおおおお!?」

「こ、これは!?」


 魔法的素養の低いハナコでも分かる程の強烈な魔力の輝き。

 どうやらレイシェント自身にも予想できていない何かが起きている。

 一体何が起きるのか……眩い光が消えたその後には。


「これ、は……」

「湖? うっそだろ……」


 広大な草原に突然現れた、水を湛える場所。

 池と呼ぶには大きすぎる、そんな場所。


「え? あー……ああ。ありがとう……」


 何処かに視線を向けていたレイシェントは、そのままハナコへと振り向く。


「……気合い入れてやった。感謝しやがれ、だそうだ」

「旦那。さっきの風の精霊の話……やったら大地が割れるんじゃないですかね?」

「いや、土の精霊とケンカになるから、ないとは思うが……」

「ならなかったら有り得るんですな……」


 水の問題はどうにかなった。

 なったが……何か別の問題を呼びそうな気がする。

 一日目にして生まれた巨大な問題を考えるに、ハナコは頭痛がしそうであった。

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