15. 私にも矜持というものがございますわ
私は休憩室を出て、まだ時間的にも煌びやかな雰囲気が漂うホールへと向かいました。
私は普段、ジョシュア様のエスコートを受ける夜会ではなるべく慎ましく見えるようにしてまいりました。
王家の血をひき公爵令息であるジョシュア様を一層引き立てるように努めてきましたし、私は見苦しくない程度に控えめな外見と態度を意識することで、目立ちたがり屋で周りの反応を常に気にするジョシュア様の機嫌を損なわないようにしてきたのです。
私が社交界で自分よりも目立ちすぎることを、ジョシュア様はお気に召しませんでしたから。
とりあえず、私はもう控えめな態度はやめることにいたします。
控えめにすればするほど、あのボンクラは調子付いてドロシー嬢とともに私を蔑ろにするのでしょう。
少なくとも、私はこのシュヴァリエ王国宰相の娘でありアルウィン侯爵令嬢なのです。
驕り高ぶることはなくとも、私にも矜持がありますのよ。
「ジョシュア様、長らく席を外しまして申し訳ありません。」
ホールに戻った私は、ドロシー嬢と離れて他の貴族方と談笑するジョシュア様の元へと帰りました。
「皆さま、ごきげんよう。」
お若い頃は社交会の薔薇と呼ばれたお母様のように、美しく花開くような微笑みを意識してカーテシーでご挨拶いたしました。
「エレノア嬢、貴女は今日もとてもお美しいな。」
「ありがとう存じます。オースティン伯爵様。」
「いや、今宵はなお一層美しいが何か秘訣があるのですか。」
「いいえ、ハイマン子爵様。私はただジョシュア様が恥をかくことのないようにと努めるだけですわ。」
「ほう……我々の名前をご存知ですか。ジョシュア殿も、このように華やかで美しく、非常に聡明な御令嬢が婚約者とは本当に羨ましい限りですね。」
「レッドメイン侯爵令息デレク様、恐れ入ります。二人の兄からも皆様のお話をお伺いすることもございますから。」
皆様は感服したように私のことを見ておりましたが、ジョシュア様は苦々しいお顔をするばかりです。
それもそのはず、普段ならば私から殿方へこのような会話をすることなどないのです。
いつもジョシュア様の少し後ろで控えて、相槌を打つ程度なのですから。
「アルウィン家の御子息といえば、嫡男のディーン様は明敏な知性で国政を支えられ、次男のエドガー様は騎士団で次期騎士団長とも謳われる剣の達士だとか。お父上は我が国の敏腕宰相ですし、とても素晴らしいご家族ですね。」
そうおっしゃったのはハイマン子爵様です。
きっとジョシュア様と私のご機嫌伺いのつもりでしょうね。
「ありがとう存じます。自慢の家族ではありますわ。」
「それに加えて思慮深く麗しい御令嬢となれば、アルウィン家と縁続になられるジョシュア様はとても幸運ですね。」
ニコニコと笑いながらおっしゃるハイマン子爵の言葉に、その場の皆一様に頷いておられます。
我がアルウィン家はそれだけこのシュヴァリエ王国では名高い侯爵家でありますから当然と言えば当然なのです。
「エレノア、そろそろ帰らねばならん。皆さん、今宵はこれで失礼します。」
皆の視線が私に集まることを良しと思わないのがこの目立ちたがり屋のジョシュア様です。
苦虫を噛み潰したようなお顔で引き攣った笑みを浮かべてお暇の挨拶をし始めました。
「それでは皆様、ご機嫌よろしゅうございます。」
私とジョシュア様は夜会の会場から馬車へと向かったのです。
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