ボンクラ婚約者の愛人が雇った殺し屋に何故か溺愛されました

蓮恭

1. ご機嫌よろしゅうございます


「この人たらしの箱入り令嬢が!」


 ドロシー嬢がご自慢のチェリーレッドの髪を逆立てるようにして私の方へと歩いて参ります。

 『人たらし』ですとか『箱入り令嬢』ですとか、まるで悪口なのか褒め言葉なのか分からないことになっていますけれど大丈夫でしょうか。


「ごきげんよう、ドロシー嬢。いかがなさいましたの?」

「なにが『ごきげんよう』よ! アンタに仕向けた殺し屋がなんで私を殺そうとしてくるのよ!」


 ドロシー嬢の爛々と光るエメラルドグリーンの瞳はとてもお美しいのに、物騒な言葉が全てを台無しにしています。


「残念ながら私はまだ死にたくはないのです。そしてその理由を懇切丁寧に説明しましたの。そうしましたらご理解いただけたようなのです。つまりはキャンセル、返品のようなものですわ。どうぞ、お受け取りくださいませ。」


 もうお会いすることもないでしょうから最大限の礼を尽くそうと、元婚約者様から唯一褒められたカーテシーでご挨拶いたしました。


 「それでは、ご機嫌よろしゅうございます。」



 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る