30話。冒険者狩り事件の解決
「あーっ、アルフィンよ。話はわかったんだが。これは俺の手には余るぜ」
冒険者ギルドのマスターは、頬を掻いた。
冒険者ギルドには、縄に縛られたヴェルトハイム聖騎士団のメンバーたちが転がされていた。
昨晩のうちに魔物たちに頼んで、拘束した彼らここまで運んでもらったのだ。
「ギルドマスター、肝心なことをお聞きしますが。懸賞金50万ゴールドは出ますよね?」
ティファが私の代わりに、聞きにくいことをズバッと尋ねてくれた。
「もちろん出すけどよ。こいつは大問題って、レベルじゃねぇぞ。公になったら、天地がひっくり返るほどの騒ぎになる。って、もうなっているか……」
やって来た冒険者たちが、ギルドに転がされている聖騎士たちを見て、騒ぎ出している。
「ねーねー、ギルマス。これって、どういうことなのさ」
ちょうどギルドにやって来たフィーナさんが、小首を傾げた。
「ああっ、もうめんどくせぇーな! 要するに勇者様の聖騎士団が冒険者狩りの黒幕で、アルフィンたちがふん縛ってきた、ということだ!」
ギルドマスターが、冒険者たち全員に聞こえるように大声を上げた。
「くそぅ! これは国家レベルの問題になるぞ! もうどうにでもなりやがれってんだ!」
ギルドマスターは、カウンターの奥で頭を抱える。だけど、事実を隠蔽する気はないようだった。
昨日、スラム街で起きた戦闘については複数の目撃者がおり、輝く翼を持った巨人が現れたと噂になっていた。さらに、聖騎士団と、どこから現れたのか魔物も群れもその場にいたということで、大騒ぎになっていた。
何か重大な事件が起きたことは確かであり、憶測が憶測を呼んでいた。
冒険者ギルドとしては、その事件の中心に私とティファがいたこともあり、何らかの発表をしなければならないみたいだった。
ギルドマスターには、ちょっと悪いことをしてしまったかも知れない……
「おい、アルフィン! ヴェルトハイム聖騎士団が黒幕って、何か証拠でもあるのか!? 間違いだったりしたら、やべーことになるぞ!」
「マジでお前らが冒険者狩りを……勇者の聖騎士団を倒したのか!?」
「ってか、ふたりだけじゃ、絶対に無理だろう!? 何をどうやったんだ!? 魔物の群れが街中に現れたって噂もあるしよ!」
冒険者たちが、一斉に私の周りに群がって来る。
「えっ、ちょ、ちょっとみなさん……」
怒涛のように質問を浴びせられて、私はタジタジになってしまった。
「やー、アルフィンちゃんてすごい娘だと思っていたけど。予想を飛び越え過ぎていて、もう何も言えないね」
フィーナさんがおもしろそうに笑う。
「みなさん。アルフィン様が困っておられます。質問は私が代わりに答えます」
ティファが毅然と言い放つと、みなの注目はそちらに集まった。
「まず証拠というのは、自白です。彼らの騎士隊長バルトラが罪を認めました」
憤然とした様子で、ティファは付け加える。
「エルフが殺人鬼というのは、とんでもない誤解です。彼はバルトラに操られていただけです! すべての罪は、ヴェルトハイム聖騎士団にあります」
冒険者狩りの実行犯だった彼女の兄ルスカは、魔王城に匿った。ルスカはエンジェル・ダストの実験の被害者であり、冒険者ギルドに引き渡すつもりはなかった。
また、バルトラに捕らえられていた他のエルフたち数名も、解放して魔王城に住まわせていた。
「だそうだが……そういうことで良いんだよな、騎士隊長さんよ?」
ギルドマスターの呼びかけに、バルトラが頷く。
「はい。すべて私の一存で行ったことです。手柄を上げるため、命令に無い危険な実験をこの都市で行いました。勇者ロイド様も聖王国も関係ありません。
部下たちは私に脅迫されて、無理矢理従っただけです」
「すべての罪をひとりで背負いこもうってか? 殊勝なことだが……」
「そこのエルフの娘の言っていることは本当です。エルフどもを使った人体実験をしていたのですが、昨晩、ヘマをしましてね。エルフどもには全員、逃げられた上、こうしてお縄になったという訳です」
バルトラは皮肉げに笑った。
「街中に現れた魔物とは、実験のために私が飼っていたモノです。これらにも逃げられたのですが、すべて処分しましたので問題ありません。
なに、ご安心を。もう今夜から、魔物も冒険者狩りも、決して現れることはありませんよ」
バルトラは天涯孤独だったところを、ロイドお父様に才能を見出されて騎士見習いに抜擢された。
だから罪を認めても、ロイドお父様を裏切ることは決してできないと、昨晩、私に語った。
それに勇者が事件の本当の黒幕などと指摘しても、聖王国は決して認めないだろう。
むしろ、失態を犯した聖騎士たち全員を処刑するなどして、問題を強引に終わらせる危険がある。
なのでバルトラはひとりですべての罪を被ると決めた。
悔しいけれど、それが犠牲者をなるべく出さないでこの事件を終わらせる最良の道だと私も思う。
「そういうことにしてもらえるなら、俺としてもありがたいが……お前さん。死刑を覚悟しておくんだな」
ギルドマスターが、腕組みしてバルトラに告げる。
「ギルドマスター、死刑はさすがに。できれば寛大な裁きを……」
「アルフィン、そいつは裁判によって決まることだ。こいつに恨みを持つ者は大勢いる。あまり甘い判決は期待できねぇな」
「アルフィン様、ありがたいお言葉ですが。元より失敗すればこうなる運命だったのです。騎士として、私も覚悟を決めました。これ以上の情けは無用に願います」
バルトラはもはや取り乱しはしなかった。決意を込めた瞳で、私を見つめる。
それなら、もう何も言うべきではないのかも知れない。
「ケッ! よくわかってんじゃねえか、この野郎!」
「俺たちの仲間を何人も殺しておいて、タダで済むと思うなよ!?」
殺気立った冒険者たちが、バルトラを取り囲んだ。今にも殴りかかりそうな彼らをギルドマスターが、手で制す。
「それにしてもアルフィン様って……聖騎士様にそんな風に呼ばれるアルフィンちゃんて、何者なのさ?」
フィーナさんが興味深そうな目を向けて来た。
私はギクッとして返答に困った。
「そのお方は、先代の聖女ミリア様のお子にして、真の聖女ですよ。シルヴィア様が聖女のスキルを得たために、追放の憂き目に合いましたが……
あなた方は実に運が良い。真の聖女の回復薬を独占的に扱うことができるなんてね」
「「はぁ……っ!? な、なんだってぇ!?」」
バルトラの爆弾発言に、ギルド中が騒然となった。
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