9話。闇の聖女アルフィン
「きゅう!(ウチの子が、冒険者の毒矢を受けて死にそうなんです。助けていただけませんか?)」
押し寄せてきた魔物たちの先頭にいたのはウサギ型モンスター、ビックラビットだった。
ビックラビットは、口から泡を吹いている子ウサギを抱きかかえている。
「は、はい、ではこれを飲んでください……っ」
私は【闇回復薬(ダークポーション)】の蓋を開けて、子ウサギの口に流し込む。
「きゅうきゅ!?(甘いぃいい! お母さん、コレすごく美味しいよ!)」
「きゅきゅ!(ああっ、この子が息を吹き返したわ! ありがとうございます!)」
「もう大丈夫ですね。では、次の方……っ」
子ウサギが元気を取り戻したのを確認してから、私は次の魔物を呼ぶ。
「ガォー(冒険者に斬られた足の傷が、ずっと痛いんだよ!)」
熊型モンスター、クマクマベアーが涙目になって訴える。傷口が化膿してしまっているようだった。
「では、これを足に塗りますね」
【闇回復薬(ダークポーション)】を塗ってあげる。ひどい怪我の場合は患部に直接、塗った方が効果が高い。
「ガォ!(ウソぉおお! 痛くないんだよ。お姫様、ありがとうだよ!)」
クマクマベアーは、バンザイして喜び回った。
「良かったわね。では、次の方っ」
私はさらに次の患者を呼ぶ。
まだまだ、涙目で痛みを訴えるモンスターたちが大勢いた。
「よし俺も手伝おう。【闇回復薬(ダークポーション)】を飲ませるか、傷口に塗れば良いんだな?」
「私めもお手伝いしましょう」
ランギルスお父様とヴィクトルが、腕まくりして申し出てくれた。
「はい。お願いします! 通常は飲んでもらうだけで大丈夫です。傷がひどかったり、飲めないようなら、患部にかけてあげてください」
3人で患者をドンドンさばいていく。
なんと、背中に剣が刺さったドラゴンまでやって来た。
「ゴオオオン!(背中が、ずっとズキズキするんだよ!)」
ドラゴンが痛みから暴れると、周りのモンスターたちが、とばっちりを恐れて一斉に逃げ出す。
きゃー! わっー! と、大騒ぎになった。
ドラゴンは一見元気なようだけど、血を流し続けて危険な状態だった。
「いかんな。俺が背中の剣を抜き取るから、アルフィンは【闇回復(ダークヒール)】を頼む!」
「は、はい。わかりました……っ!」
ランギルスお父様がヒョイと、ドラゴンの剛腕をかいくぐる。彼はドラゴンの背中に降り立って、剣を引き抜いた。
ドラゴンが激痛に身をよじる。
「【闇回復(ダークヒール)】!」
その瞬間、私は魔法を放った。ドス黒い波動がドラゴンを覆い、怪我を跡形もなく消し去る。
「グォオオオオ!(い、痛みが消えた! ずっと続いた痛みが消えたぁ!)」
ドラゴンは歓喜の雄叫びを上げた。
「ガオオオン!(アルフィン様、ありがとうごさいます! 偉大な闇魔法の使い手、我らが姫。アルフィン様に俺の忠誠を!)」
ドラゴンは頭を下げて、私に平伏するようなポーズを取った。
他のモンスターたちも、それに一斉にならう。
「はぃいい!? っ、ちゅ、忠誠……?」
私は面食らってしまった。
「どうやら、この者らはアルフィンお嬢様を魔王ランギルス様のご息女と、認めたようですな」
ヴィクトルが、私のそばに寄ってきて告げる。
「私めもアルフィンお嬢様の闇魔法の腕前には感服つかまつりました。弱った魔物たちを慈しむそのお姿は、聖女のごとき気高さですな」
「グォオオオオ!(なにより、アルフィン様は美しぃいい……!)
ドラゴンが空に向かって火を吹きながら叫ぶ。
わ、私が美しい……?
闇魔法を使ったため、私の容貌は銀髪の美少女へと変化していた。
そんな私を魔物たち、特にドラゴンがうっとりとした目で見つめている。
「ああっ、えっと、みなさん。これは私の本来の姿では、なくてですね……っ」
「その銀髪こそ、魔王ランギルス様の血を引く証拠でございます。お嬢様、それ以上は……」
ヴィクトルが私にそっと耳打ちする。
「お嬢様は聖女ミリア様の娘で、勇者ロイドに育てられました。この生い立ちから、お嬢様を敵視する者もおりましょう」
「は、はい……!」
確かに魔王の血を引くことを、私がマイナスに捉えていると受け取られてはマズイかも知れない。
私は慌てて言葉を引っ込めた。
「みんな。魔王城に移住したい者がいたら、受け入れる! アルフィンはお金を消費することで、魔王城に新しい設備を設置できるスキルを持っている。
ドンドン設備を追加して魔王城を強化し、もう誰にもお前たちを傷つけさせないつもりだ。例え、相手が勇者や聖女であってもだ!」
お父様が宣言すると歓声が上がった。
「ガォ? ガオ!(お金を消費することで? なら、僕の爪を提供するから、お金にして!)」
熊型モンスター、クマクマベアーが手を挙げる。
「きゅう!(なら、私の毛(ラビットファー)も使ってください!)」
ビックラビットの母ウサギも、名乗り出た。
「ゴォオオオン!(俺の鱗も提供します!)」
ドラゴンも鱗のひとつを剥いで、差し出してくれた。
「みなの忠誠、痛み入りますぞ」
毛をくれると申し出た魔獣たちは、ヴィクトルによって、毛をハサミでカットしてもらう。
魔獣たちの毛は、天然繊維として高値で取り引きされる。
特にドラゴンの鱗は桁違いの貴重品だった。最高級の防具の素材となるため、商人のところに持っていけば、かなりのお金になるハズだ。
「あ、ありがとう、みんなっ……これで、魔王城を強化して、みんなを守れるようにがんばるね!」
「「がう!(はい! 姫様!)」」
私の目の前に、多種多様な魔獣の体毛や爪、鱗、といった素材が山のように積まれた。
たぶん、これらを売れば大金になると思う。自分で魔物素材を売ったことがないので、どれくらいになるかは、わからないけれど……
「わん、わんっ!(大変だ。Aランク冒険者パーティが、魔獣討伐に来ているぞ!)」
その時、ホワイトウルフのシロが、吠えながら走り寄ってきた。
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