不思議な出来事
2021年になって、透の命日5月9日に笹山家はみんなでお墓参りに行った。その日は五月の第二日曜日、母の日でもあった。
透のお墓に近づいていくと、雪菜の目に何か赤い物が目に入ってきた。
「何だろう?」
雪菜はハッとした。お墓の上に横たわっているのは一輪の赤いカーネーションだと分かった。
雪菜の心臓の鼓動が高まったが、何も言わずにお墓に近づいていくと母がまず声をあげた。
「あら? カーネーションかしら? どなたか来てくれたのかしら?」
そのまま父と母とおばあちゃんと雪菜の四人はお墓の前に来た。喋るのは母だ。
「赤いカーネーションだなんて。普通なら白を選ぶわよね。それに無造作にお墓の上に置くなんて。心当たりある人いる?」
沈黙が続いていた。雪菜には心当たりがあった。
「これはお兄ちゃんからお母ちゃんへの贈り物だよ」
「え?」
母は固まった。
「ほら、ちょっと前に私、書いたでしょ? 秘密の場所に座ってたら、FOX先生が赤いカーネーションをくわえてやって来て、その後入れ替わるように北斗がやってきて、お母ちゃんへの感謝の気持ちみたいなのを話した事。あの日はお母ちゃんの誕生日だったけど、お兄ちゃんはお母ちゃんに贈りたかったんだと思うんだ。赤いカーネーション。このカーネーションはお兄ちゃんの代わりにFOX先生が持ってきてくれたのかもしれないね。お母ちゃん、ありがたく貰ったら?」
母は涙を流していた。
「うん。うん。雪菜、ありがとう。透、ありがとう。この赤いカーネーション、ありがたく頂くよ。私達からもお花をお供えさせてね。
雪菜とおばあちゃんは、今朝庭に生えている小さな可愛い野の花を集めていたよ」
7月10日、母の誕生日にお墓参りに来た時も、同じように一輪の赤いカーネーションがお墓の上に乗っていた。
こんな事が現実にある事に、雪菜は生きている事の喜びを感じていた。
そして、7月23日。東京オリンピック開幕の日。雪菜は一人で透のお墓に向かっていた。途中で昨夜から降っていた雨が上がり、日が差した。空には大きな虹がかかった。
「何て美しい!」
透のお墓が見える所まで来た時、雪菜は目を見開いてそこに立ち尽くした。その美しい大きな虹は透のお墓から生まれていた。
「お兄ちゃん、今日始まるよ。きっと素晴らしい東京オリンピック・パラリンピックになるね。お兄ちゃんも見守っていてね」
雪菜は手を合わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます