10
喜助が歩いていると、上から声が降ってきた。
「よぉ。戻ったのかい、喜助」
「あ、飛八さん!」
喜助が顔を上げると、建物の二階部分から、化け川獺の飛八が覗き込むように、二人を見下ろしていた。
飛八は意地悪そうな笑みを、紅丸に向けた。
「小さな小さな猫又の紅丸よ。毎度ご苦労なことだな。おまえなんかに教わる喜助も、かわいそうなものだ」
「ん? どういう意味っすか?」
飛八の言葉の意味がわからず、喜助は首をかしげる。だが、そんな喜助の反応には目もくれず、紅丸は飛八を睨みつけた。
「おまえこそ、毎度ご苦労なことだにゃあ。嫌味しか口にできない、横着者め」
紅丸の返しに、飛八は口元をぴくりとひくつかせる。
「てめぇ、猫の分際で俺に張り合うのか? あとで覚えてろよ」
「上等だにゃ。返り討ちにしてやるにゃ」
「え? 二人って、仲悪いんすか?」
険悪な様子をみせる飛八と紅丸に、二人に挟まれている喜助は「え? え?」と困惑を隠せないでいる。
すると紅丸が、急に尻尾で喜助の顔をはたいた。
「いたっ! ちょっと、なんで急に叩くんすか!」
喜助は、はたかれた鼻をさすりながら、紅丸に文句を言う。
「うるさいにゃ!」
「えぇ。理不尽……」
「いいから、とっとと仕事を開始するにゃ。これから数日間で、俺様がみっちりと指導して、お前を一人前の大工にしてやるにゃ!」
「は、はいっす! ご指導、お願いしまっす。紅丸さん!」
喜助の素直な声に、紅丸は嬉しそうに二又の尻尾を揺らした。
「ちぇ」
それを見て、飛八はつまらなそうな顔をして、自分の仕事に取り掛かった。
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