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 喜助が歩いていると、上から声が降ってきた。


「よぉ。戻ったのかい、喜助」

「あ、飛八さん!」


 喜助が顔を上げると、建物の二階部分から、化け川獺の飛八が覗き込むように、二人を見下ろしていた。

 飛八は意地悪そうな笑みを、紅丸に向けた。


「小さな小さな猫又の紅丸よ。毎度ご苦労なことだな。おまえなんかに教わる喜助も、かわいそうなものだ」

「ん? どういう意味っすか?」


 飛八の言葉の意味がわからず、喜助は首をかしげる。だが、そんな喜助の反応には目もくれず、紅丸は飛八を睨みつけた。


「おまえこそ、毎度ご苦労なことだにゃあ。嫌味しか口にできない、横着者め」


 紅丸の返しに、飛八は口元をぴくりとひくつかせる。


「てめぇ、猫の分際で俺に張り合うのか? あとで覚えてろよ」

「上等だにゃ。返り討ちにしてやるにゃ」

「え? 二人って、仲悪いんすか?」


 険悪な様子をみせる飛八と紅丸に、二人に挟まれている喜助は「え? え?」と困惑を隠せないでいる。

 すると紅丸が、急に尻尾で喜助の顔をはたいた。


「いたっ! ちょっと、なんで急に叩くんすか!」


 喜助は、はたかれた鼻をさすりながら、紅丸に文句を言う。


「うるさいにゃ!」

「えぇ。理不尽……」 

「いいから、とっとと仕事を開始するにゃ。これから数日間で、俺様がみっちりと指導して、お前を一人前の大工にしてやるにゃ!」

「は、はいっす! ご指導、お願いしまっす。紅丸さん!」


 喜助の素直な声に、紅丸は嬉しそうに二又の尻尾を揺らした。


「ちぇ」


 それを見て、飛八はつまらなそうな顔をして、自分の仕事に取り掛かった。

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