一ノ巻 大工仕事はお任せを 紅丸

 人間の喜助きすけは、笑顔で大事な大工仕事を抱えながら、今日の現場に向かっていた。


(やっと、やっと俺は大工になれたんだ! 今日からは雑用ばかりの見習いとしての仕事じゃなくて、憧れの大工としての仕事ができる! まだ下っ端だけどっ)


 この春、喜助はようやく、見習いから新人の大工と名乗ることを、親方である一ツ目の仁平にへいから許された。

 今日は大工としての初めての現場仕事で、喜助は浮かれ過ぎて夜もろくに眠れなかったほどだ。

 現場が見えてくると、すでに仁平をはじめとした大工仲間たちが、仕事の準備をしていた。


「親方ー! おはよーございます!」


 喜助が走り寄りながら声をかけると、仁平が顔をあげた。


「来るのがおせーぞ、喜助! おめぇは本来、俺たちより早く来るべきだろうが!」

「すんません! 寝坊しました!」


 笑顔で素直に申告する喜助に、仁平は呆れて、額に手を当てて首を横に振る。


「親方、頭でも痛いんですか?」

「おめぇの態度に、呆れてんだ馬鹿たれ」

「はぁ。それより親方! 俺、どんな仕事を任せてもらえるんですか?」


 目を輝かせて言う喜助に、仁平は道具を腰紐にぶら下げて答えた。


「仕事の前に、おまえは『化け猫亭』に行って、紅丸べにまるを借りてこい」

「へ?」


 てっきり仕事を貰えると思っていた喜助は、目を瞬かせた。

 

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