化け猫亭~化け猫の手、お貸しします~

岡本梨紅

序ノ巻 化け猫の手、お貸しします

 人間と妖怪がともに生活する江戸の町。そんな江戸にある町の一つ、八丁堀には少し変わった店があった。その名も『化け猫亭』。


 女主人のおらんは、三毛柄の耳と長い尻尾を揺らして、今日も客を出迎える。


「いらっしゃい。初めてのお客さんだねぇ。え? 外看板の『化け猫の手、お貸しします』が、どういう意味かって? そのままの意味さ。

 うちが取り扱っているのは、人手ならぬ猫手ねこてだよ。ほら、よく言うだろう? 手が回らないほど忙しいときに、『猫の手も借りたい』ってね。

 うちはまさしく、その猫の手を貸し出しているんだよ。もちろん、困っていることがある場合でも、依頼は受け付けているよ。ひとまずうちの従業員の子たちを紹介してあげよう。おいで、おまえたち」

「にゃあ」


 お蘭に呼ばれて店の奥から現れたのは、ねじり鉢巻に大工道具を持った赤虎猫の紅丸べにまる。腰に前掛けをつけた白猫の白菊しらぎく。小さな斜め掛け鞄を提げて、「化け猫亭」と刺繍ししゅうされた帽子ぼうしを被った黒猫の月夜つくよ。合計三匹の猫たち。


 猫たちの尻尾はみんな二又に分かれていた。『化け猫亭』の従業員は、化け猫族の猫又なのだ。


 お蘭は三匹の頭をそれぞれ撫でる。


「この子たちは、それぞれ得意な分野があるんだ。紅丸は大工仕事。白菊は接客。月夜は配達。虎之介は用心棒なんかを請け負うよ。

 みんなとっても優秀な子たちだ。必ず、お客さんの助けになる。さあ、どの子を選ぶんだい?」


 化け猫のお蘭は、目を細めて笑いながら、尻尾をゆらりと揺らした。

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