再会

 誰もいない放課後の教室で一人静かに過ごす。

 入学式はとっくに終わったというのに、まだ校庭から騒がしい声が聞こえてくる。元気な人達だ。

 お察しの通り僕はぼっちだ。友達を作らないのではなくて、作れないタイプ。まず他人と視線を合わせられない。もう詰んでる。誰か助けて泣きたくなってきた。まぁそれはどうでもいいや。いや良くはないけど。

 チラと隣の席で眠っている同級生を見る。知らない人だ。同級生誰も知らないけど。彼女ずっと寝ている気がする。寝不足なのかな?

 寝顔を観察していると、突然彼女が目を見開いた。勿論目が合ってしまう。明らかに不自然な速さで顔を背けてしまった。

 彼女が何を言い出すのかヒヤヒヤしながら、言い訳を考える。もう体に染み付いてしまった癖だ。でも身構えた僕にかけられた言葉は意外なものだった。


「久しぶり」


「……?」


 僕は必死で記憶を遡った。どこかで会ったことがあるのか? 記憶にないぞ。

 彼女は僕の思考を読んだように不服そうな顔をして言った。


「え、憶えてないの?」


 圧をかけないでくれ。思い出せないものは思い出せないんだ。まずいな、想像と違う方向から追い込まれてる。白状するか。


「ごめん全く憶えてない。名前も分からないし、多分顔も見た事ない。どこで会った?」


 ぷくーっと彼女の頬が膨らむ。相当お怒りのようだ。ちょっと可愛い。そんな事言っている場合ではないけど。

 よく見ると少し目が潤んでいる。そんなにショックだったのか。なんだか申し訳なくなってきた。

 彼女は俯いて呟いた。


「かっこよかったのになぁ」


 突然何を言い出すんだ。


「目が腐ってるな」


 少し強めに言い放った。すると彼女はジト目で僕を見た。


「容姿じゃないもん。優しさだもん」


 おっとこれは恥ずかしい。自意識過剰みたいになってしまった。


「あっそ」


 なんだか素っ気なくなってしまった。

 いや待て、真偽は別として僕が優しいと思うという事は、それなりに会話したことがあるということだよな。


「頼む教えてくれ。君だけ有利だと何が起こるか分かったもんじゃないから」


「何それひっど!」


 彼女がそう言った後、僕らはひたすら笑った。

 それから好きな歌手だったり、趣味だったりを先生が来て怒られるまで語り合った。

 先生に追い出されるように学校を出た。

 そして帰り道、ふと思った。


 結局誰だったんだ?


 正体が分かったのは翌日の朝だった。


 これが僕と彼女が再会した時の話。

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