霧島 摩利香は学園最凶である? ~学園最凶美少女とのすっごく危険な青春ラブコメ はじまりの物語~
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はじまりの生徒手帳
僕の希望に満ち溢れた高校生活ってのは、のっけから本当にロクでもなく退屈なものになり下がってしまった。とにかくクラスに全く馴染めない。知らない奴ばかりの環境がこんなに苦痛だってことを、初めて思い知ったよ。
考えてみれば、小学校の時とかは一体どうしていたんだろう? きっと、何も考えてなかったんだろうね。
とりあえず、僕は輝かしい高校生活の第一歩とやらを思いっきり踏み外し、カースト最下位、ぼっちの陰キャラとしてレッテル張りされていたんだ。本当に失礼しちゃうよ。
まあ、百歩譲ってそれだけならまだ良かった。問題なのは、中学生の妹まで僕のことを陰キャラ呼ばわりして軽蔑し、母親まで僕の高校生活を心配してくるってことだ。
一体何故かって? 答えは簡単さ……。
「
夏の足音も近づく雨上がりの午後だった。学校からの帰り道、朗らかな日に照らされてキラキラと光る水溜りを避けながら歩いていると、鬱陶しくて耳の痛い声がひっきりなしに後ろから飛んで来る。
振返ると、程よく日に焼けた健康的な肌が印象的で、ポニーテールのやたら快活な女子高生がついてきていた。
「なんだよ、お前だって部活サボってんじゃないか。なんでついてくんだよ?」
「今日は部活休みなの! それに、家がすぐ近くなんだから、吾妻と帰り道が一緒で当然でしょ!」
その通りだ。この鬱陶しくて迷惑なくらい快活な女の子こそ、僕のフ〇ッキン幼馴染、
大変腹の立つことに、こいつは勉強も運動もできて、身内から見てもかなり美人、おまけにコミュ力モンスターと、嫌味なくらいハイスペックな女子高生なんだ。
え、何? そんなハイスペックな幼馴染がいて羨ましいだって? 考えてみてくれ、こちとら物心つく前からこんなチート幼馴染と比べられて育ったんだ。僕の小中学校時代は今よりは充実していたものの、とにかく劣等感との戦いであったよ。
でもでも、なんだかんだ言って、こんなに構ってもらえるんだから、内心は喜んでいるんじゃないかって? まあ、そう思う君らの気持ちも分かる。もしかしたら関係が進展して……なんてことも、あるかもしれないからね。
だがね、世の中そんなに甘いもんじゃない。この僕のハイスペックな幼馴染には、それに相応しいハイスペックなイケメン彼氏が既にいやがるんだ。
「那木ママにも、吾妻の面倒見てって頼まれてるんだからね! しゃっきりしなよ!」
「何なんだよ……うるさいな」
中学校の時までは、誰もが羨むハイスペック幼馴染も、今や彼氏持ちで鬱陶しいだけの死ぬほどお節介な、僕の家族が放った秘密警察となり果てていた。
その後も毘奈は僕の後ろで、「なんだーかんだー!」と、耳の痛いことばかり言い続けるもんだから、さすがに僕も困り果てて無視をすることにしたんだ。
僕が露骨に無視をしているのに腹を立てたのか、毘奈は不意に浅い水溜りの上をバシャバシャと走りながら、僕の前に回り込む。僕がたじろぐと、毘奈は僕の顔を下から覗き込むように見上げた。
「もう、無視すんなよ。……吾妻、学校行ってて楽しい?」
「……別に、楽しかねーし。お前には関係ないだろ」
僕は堪らず目を逸らした。もういい、本当に構わないで欲しかった。こいつの言うことは、僕をよく知っているだけあってよく刺さるんだよ。
お互い売り言葉に買い言葉だったのかもしれない。だけど、毘奈のその言葉に僕はついにカチンときてしまったんだ。
「吾妻……一体何しに高校行ってるの?」
僕は拳を震わせながら目の前の毘奈を見下ろすと、わざとせせら笑うような表情を浮かべてぶちまけてやった。
「そりゃ、お前は楽しいだろうよ!」
「吾妻……?」
「そんな短いスカート履いて、似合わない薄化粧で先輩を誘惑してんだからな! 全く関心するよ、最近の女子高生のビッチぶりにはさ!」
もう完全に言い過ぎだった。でも、僕がそれに気付いた頃には、毘奈は顔を真っ赤にして掌を大きく振り上げていたんだ。
「あーずーまぁぁぁぁっ!!!」
ああ、人って肝心なことは何一つ言えないのに、何でこう余計なことばかり言ってしまうんだろうね。流石にこれは自分が悪いと思って、僕は目を閉じて歯を食いしばった。
ところがどうだ? 毘奈の怒りのビンタはいつまで経っても、僕が捧げた右頬を打ち払うことはなかった。
いくらなんでも遅すぎると思い、僕は恐る恐る目を開いた。すると、さっきまで顔を真っ赤にして怒っていた毘奈が、血の気の引いて青ざめた顔をしているじゃないか。
「ひ……毘奈?」
「ううう、後ろ!」
僕はてっきり後ろから車でも来たのかと思ったけど、毘奈のその反応はそんな取るに足らないようなことじゃなかった。
要は、振り返ってみないと何も分からない。僕は何のことやらと疑念を抱きながら、ゆっくりと後ろを振り返った。
「え……女の子?」
そこに立っていたのは、小柄でショートボブの一人の少女だった。どうやら、水溜りとの絡みで僕らが道を塞いでしまい通れないみたいだ。
この少女、黒いパーカーを羽織っていてメッセンジャーバッグを背負ってはいるが、スカートの柄からしてうちの高校の生徒だ。
いや、問題はそこではない。この透き通るような白い肌、水晶のように美しくてそれでいて研ぎ澄まされた刃物のような眼差しに、僕は一瞬で心を奪われてしまった。
「女の子……だとは思うけど、男の子にでも見えた?」
「いや、ごめん、何でもない」
「そう……だったら、そろそろどいてくれないかしら? 痴話喧嘩ならよそでやって……」
その少女は表情一つ変えず、淡々と言い放った。今まで毘奈はそれなりに美人だとは思っていたけど、このミステリアスな少女はそれと同格……いや、身内贔屓をしたとしてもそれ以上だ。
「ご、ごめんね、邪魔だったよね! 私たちすぐどくから!」
僕がボーっとその美少女に見惚れていたものだから、毘奈が血相を変えて僕を道の端に引っ張った。すると、その少女は何もなかったかのように、すたすたと黄昏の先に消えて行ったんだ。
「吾妻、何ボーっとしてんの! あれ、
「え? あの子そんなに有名なの?」
「バカ! 学園中みんな言ってんだよ! 霧島 摩利香はマジでヤバいって!」
「あの子が? とてもそんな風には見えないけどな……」
「本っ当になにも知らないんだね。この前まであの子、暴力事件で停学になってたんだよ!」
確かにあの刃物みたいに鋭い眼光はただならないけど、小柄で如何にも非力そうな少女が暴力事件を起こすなんて想像もできない。不良って感じでもないしな。
それでも、毘奈の狼狽の仕方は半端ではなかった。彼女のお陰で僕への怒りなんて、どこかへ吹っ飛んで行ってしまったみたいだからね。ある意味、霧島 摩利香様様だよ。
「いい、もう絡むこともないかもだけど、霧島 摩利香なんかに絶対関わっちゃダメだからね!」
「ああ……うん」
そう言って、毘奈は僕の前を進み始めた。毘奈にはああ言われたものの、僕は俄然霧島 摩利香への興味が湧いてきていた。美少女っていう要素を差し引いたとしてもね。
そして高校入学以来、まるっきりつきから見放されていた僕に僥倖が訪れたんだ。僕はうっすら黄昏の滲む空の下、水溜りの淵に落ちていた一冊の生徒手帳を拾った。
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