空を飛ぼう2

 トイレに行ったり軽く仮眠したりして新技術展示会も早2日目。紅葉たちは色々やることがあるらしく別行動。となれば俺はぼっちで暇だから結局『HAO』を遊ぶという選択肢になってくる。何のためにやってきたのでしょうか、別に3日目からでもよかったのではなかろうか。



 もっとも昨日のテオ達の話を考えると俺が顔を見せたということ自体が『SOD』への釣り餌となるらしい、ならば今日くらいだらけていても良いはず。というかあのまま放置したくない。



「オー戻ってきたか。今まさにいい感じだぞ」


「嘘だ……未来を知っていたわけでは……では私たちの警戒は……」


「こちらの方は?」


「オレンジの真実を知りSAN値チェックを受けております」


「なるほど、うーん。お大事に」


「誰のせいだと思っている貴様!?」



 で、ログインしたら体育座りをしている金髪女ことクーちゃんとそれを見て笑いをこらえているテオがいた。楽しそうだなお前。あとクーちゃんはこちらを見た瞬間絶望の表情になるのやめてくれ、もう5回目だぞ俺も笑っちまう。



 コクピット内を見るとマップの表示が大きく乱れていた。テオが不安定だと言っていたのは事実であり、しかし早い段階で取得できた正しいデータを元に補正することで幸いにも迷子にはなっていなかった。残り距離はもう1/3であり、想像の数倍早い。



 そう言うと「鋼光に感謝しとけよ」とテオが言う。何故かよくわからないので首を傾げた所テオはコンコンと『ファルシュブルー』を叩いた。可能な限り硬さと軽量化を追求した装甲は反動でテオの手にダメージを与え、テオが顔をしかめる。そんな強さで叩くからだおバカ。



「そりゃお前の装備を常に万全にしてくれたからだろうさ。ここまで進行して何故機械獣に当たっていないと思う、レーダー対策として貴重なステルス塗料を惜しげもなく使って2060年までメンテを欠かさないよう手配してくれたからだ。それに思ったことがないか、自分の腕前が最適化されすぎていないかって」


「まあ確かに数回しか乗ってないのに変だよな」


「そこはApollyon側のコンピューターで補正をかけているわけだ。2055年までのお前のデータを元に最適化した補助プログラムを用意して走らせている。しかも何周分も入れているわけだから感覚的に動かしても理想にかなり近い立ち回りができるはずだ」


「だからVer1.06で当時運搬用だった量産型Apollyonであんなに戦えたのか」


「Ver1.06、確か鋼光と初めて会った時だよな? ならそれは素の実力だ。……あれ素の実力なのか!? いやいくら補正かけてもあそこまで強くなるか微妙、でもきっと『同期』して経験値得てたと思ってたんだけどさ」


「いえい」


「オレンジ……神輿……嘘……無能力……はぁ……」



 その努力は知らなかったと思いながら改めて機体を見る。確かに『ファルシュブルー』のメンテは無料であったしそれ以前でもMNBの搭載などにおいて様々なサポートを受けていた。プログラムの最適化についてはあまり実感はなかったが、初期とは違いあれだけ多種多様な機能と武装を用いているにも関わらず練習無しで戦えたのは間違いなく紅葉とおっさんのおかげなのだろう。でも強さは6割くらいは素の実力だと思う、生身でリスキル回避できたしさ。



 そして横で変わらず絶望し続けているクーちゃん。もうそろそろ何とかしてくれないかな、と思っていたら彼女の腰に生えていた触手がきゅっと逆立つ。そしてうろうろ動き回った後にクーちゃんは姿勢を整える。



「……血だ」



 その言葉を聞き俺とテオの緊張が一気に高まる。確かにおかしい。この作戦では数多のプレイヤーが投下され目的地を目指しているはずである。故に俺たちはクーちゃん以外にエンカウントしても全くおかしくない。しかし蓋を開けてみれば彼女以外とは出会っていない。テオが緊張した面持ちでクーちゃんに問い返す。



「もう一度確認するぜ、斥候として通信中継器を設置したお前は機械獣に追い回されてあそこに倒れていたんだよな?」


「間違いない。付け加えるなら私は初めから一人だった。一番端の、裏切ったところで大勢に影響がない部分を担当したからな。まあ結果オレンジとお前が釣れたのは想定外にもほどがあるがな」


「じゃあ何故オレたちはマップ情報は確認できるのに音声通信は確認できていないんだ?」


「あれ、そんな説明あったっけ?」


「……そうか、このVer以前はこんな探索をすることがなかったんだな。攻略情報の共有は『教団』や『革新派』により行われる予定だった。だがここまで近づいても音声通信は行えていない? 使用している周波数の違いかと考えていたがこれは」



 白い霧が少しずつ薄くなっていく。ブレードを構え足を進めると見えてきたものは肌だった。そこは大きなクレーターのような形になっておりその中心に巨人が居座っている。所々から金属の内臓や筋肉が零れ落ちているが驚くべきはそこではない。融合型Apollyonに目を向ける余裕すら俺にはなかった。



 人の頭に細分化された金属の触手が差し込まれている。脳を切り開き何か必要なものを探すかのように17式始原分裂体、核を撃った張本人は人間を弄り続けていた。それもただの人ではない、恐らくプレイヤーだ。実際にフィードバックが無い以上苦痛はないのだが、脳が弄られているにも関わらず彼らは抵抗している。一方苦痛に身を捩るNPCらしき人物にはそれは一瞥すらせずに首をねじ切った。



 そして17式の見た目もまた異様なものに変貌していた。団子のような金属塊から蜥蜴の足と人の手が交互に出ている。金属の、融合型Apollyonを模したその手には爬虫類の目が至る所に張り付いており、全ての目が独立して別々の方向を監視し続けていた。上部からは無数の触手が生えておりその中心に直立した、核ミサイルを発射する装置が軸のように立っていた。



 今までの分裂体と異なる異形、目的を持つ行動。プレイヤーのみを選別する意味は何なのか、何故事前にここに居座っていられたのかはわからない。だが通信機と思われる塔に触手が差し込まれて根を張っている事実が答えの一端であることは間違いがない。



 さらに俺たちはプレイヤーの中では着陸地点からして最も遅い到着である可能性が高く、援軍は期待できない。こいつを倒さなければ永久に核で狙い撃ちされる危険がある。しかし一方で融合型を回収して無限地平線の中心にたどり着く必要もある。俺達だけで? 融合型がいくら強かったとしても何体いるかわからない分裂体を相手にして? しかも初めの敵は核を連射してくるのに?



 つまり、やはり。答えは一つだ。テオが表情を凍らせて俺に語り掛ける。



「作戦はほぼ失敗、だけどあの謎の行為を放置しておくわけにもいかないか。すまんな勘次、クーちゃん。オレ達だけで17式を何とか――」


「おう、17式で目的地まで飛ぶぞ!」


「仕方がな……ちょっと待って今なんて言ったオレンジ」



 クーちゃんが焦った様子で俺に聞き返す。いやこれぐらい当然だろ。オープンワールドのゲームをやったことがないのか。吹き飛ぶシステムと爆発物があればどれだけの悪さができるか、オープニング終了直後にラストダンジョンまで移動できたりするんだぞマジで。



「空を自由に飛ぶにはエネルギーがいるだろ? そしてそこに核がある」


「「は?」」

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