16話.違和感

 彩芽さんと別れた夜、僕はゲーム内で澪さんに今日の出来事を話していた。


「ってことがあったんですよ!」


「ふーん」


 僕の話を尻目に釣りをしていた澪さんは特に関心を示してくれなかった。

 おかしい。

 いつもなら僕の目を見て話を聞いてくれるのに、今は釣りに夢中になっている。


「あのー、シズクさん? 何か気に入らないことでもありました?」


 ゲーム内で相手の本名を呼ぶのはタブーなので、今はアバター名で澪さんに問いかける。


「別にー」


 澪さんは興味なさそうに、ドンドンとレア魚を釣り上げていく。


「大きな一歩を踏んだのに、どうして喜んでくれないんですか?」


「いやー、嬉しんだよ? でもねー」


「な、何ですか?」


「この関係ももう終わりって思うと何だか感慨深くてねー」


 またまた魚を釣り上げてる澪さんの口から聞き捨てならない台詞が聞こえた。


「……関係が終わるってどういうことですか?」


「僕はソウタ君と彩芽が知り合うまでの手助けのつもりだったからねー。特訓は今をもって終了―」


 釣りに終えたのか、釣竿をしまい、やっと僕を見てくれる。


「じ、じゃあもう僕とゲームやお話は出来なくなるってことですかね……?」


 おずおずと問いかけた質問に澪さんは首を振る。


「言い方が悪かったね、ごめん、ごめん。特訓前の関係に戻るってだけだよ。勉強会とかはもうやらないけど、ゲームとかはこれからも遊ぼうね」


「そういうことですか。よかったー、もうシズクさんと遊べなくなるのかと気が気じゃなかったです」


 ホッと胸を撫で下ろす僕に、ニヤニヤしながら澪さんが肘を突いてくる。


「嬉しい事言ってくれるねー」


 さっきの発言を思い返し、かなりの失言してしまったと恥ずかしさで固まっていると、からかうのに飽きたのか澪さんは肘で突いてくるのをやめた。


「まあ、ここからはソウタ君の頑張り次第だ。頑張ることだねー」


「はい!」


 しかし彩芽さんとお友達になり、日が経つにつれ、僕はゲームで遊ぶ時間は徐々に減っていった。

 彩芽さんとのLINEの量も増え、澪さんと以前やったような勉強会を開くことにもなった。


 勉強会の時は澪さんも含めて三人でやる予定だったが、澪さんなりの応援なのか、勉強会当日に澪さんがドタキャンし、彩芽さんと二人で勉強することになった。

 日頃の勉強の成果か、基本的に全く分からないような問題は少なく、二人で意見し合いながら、問題の解決方法を探ったり、彩芽さんに教えてもらったりした。


 学校でも話す様になり、男子達からの嫉妬の目線はますます強くなっていった。

 僕と彩芽さんの仲が進展していく程、澪さんとたくさんやりとりしていたLINEもゲームで遊ぶ時間も減っていった。


 彩芽さんとのやりとりは楽しいし、男子にとって誇れるものだ。

 このまま彩芽さんとの仲が進展していけば、恋仲にだってなれるかもしれない。


 でも心の端っこに本当にこれでいいのかと思う自分もいた。

 自分が本当は何を思っているのか分からず、反芻しながら過ごしていると彩芽さんから一通のメッセージが届いた。

 それはデートのお誘いだった。

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