13話.見舞い

 次の日、体の異常な重さから学校を休むことにした。

 今日はパートが休みなのか、母さんが何かと心配して、様子の確認にくるが、大丈夫だと部屋の中に入れずにとりあえずご飯だけ作ってもらった。

 ご飯を食べながら、経過した怪我の確認をするがまだ相当痛む。

 体を休めることに集中しようと眠りに入った。

 

 次に起きた時には太陽が夕暮れに差し掛かる頃だった。

 まだまだ眠れるなーともう一度眠りにつこうとするが、部屋のドアがノックされた。

 母さんかなと思ったら、予想外の声が聞こえた。


「壮太君、大丈夫かい?」


「え、澪さん⁉︎ 何でウチに⁉︎」


「学校のプリントを届けに来たら、壮太君のお母さんが家に入れてくれたんだよね」


「何してんだ、あの人は!」


「ここまで来たんだし、中に入れてくれない?」


「いや、それはちょっと……。部屋とっても汚いんで入らない方がいいです!」


 この怪我を澪さんに見せたくはない。


「そっかー、残念だなー。そういえば昨日、僕ずっと待ってたんだよ? どうして連絡くれなかったの? 今も既読つかないし、ゲームにもログインしてないし」


「すみません……。昨日、スマホ壊れちゃって行けないって連絡できなかったんです」


「何があったんだい? 開けてくれるかい?」


 普段ののんびりとした口調ではなく、真剣な口調の澪さんからの問いだった。

 澪さんは何かしら気付いてる。

 隠し事は無駄だろう。


「……はい……」


 部屋のドアを開けると制服姿の澪さんが立っていた。

 澪さんは僕の顔を見ると一瞬、目を見開いたが、すぐにいつも通りの表情に戻る。


「どうしたんだい、その怪我は?」


「ちょっとヤンキーに因縁つけられちゃって、この様です」


「……まずは怪我の手当だね」


 そう言って、澪さんはバックから応急セットを取り出した。


「何でそんなものが……?」


「女の子の嗜みだよー」


 澪さんを部屋の中に入れ、僕は澪さんから治療を受ける。


「僕の知ってる壮太君なら争い事は避けようとすぐに謝ったり、持ってるお金全部渡すと思うんだけど」


 治療の最中に澪さんは僕の行いを考察する。

 もう嘘をついても無駄だと判断し、澪さんに全てを白状することにした。


「夏休みに買い物行った時、澪さんがナンパされた時のこと覚えてますか?」


「そんなこともあったねー」


「実は……」


 僕は事件の経緯を説明した。


「てなわけでこんなにボロボロになっちゃいました」


「なるほどねー。僕を助けるためにそんな怪我したんだね」


「いやーホント情けないです」


「情けなくないよー、君はとても立派だ。助けてくれてありがと」


 治療が終わった澪さんは僕の頭を撫でてくる。

 これは中々に気恥ずかしい……、話を変えなくては。


「……あ、でも気をつけてくださいね! まだあのチャラ男君、澪さんのこと探してますから」


「その辺は大丈夫かなー。僕のお父さんにでも相談してみるよ」


「どうして澪さんのお父さんに言ったら大丈夫なんですか? もしかして警察官とかですか?」


「いや、空手道場の師範代だよ。お父さん親バカだから、当分は僕のボディガードをしてくれるんじゃないかなー?」


「お父さんが師範ってことは、澪さんって空手習ってます?」


「黒帯だよー」


 なるほど、あの時チャラ男さんを倒したのは空手の技だったのかな?


「僕も空手習ったら、サッと街のチンピラを倒せるようになったりしますかね?」


「なるんじゃないかなー」


「澪さん、僕に空手教えてもらってもいいですか?」


「やだー」


「ど、どうしてですか!」


「武術というのはね、自分の身を守ったり、困ってる人のために使うものであって、私利私欲のために使おうとする人には教えられないなー」


「わかりました……」


「心持ちが変わったら、教えてあげよう。じゃ、僕は帰るねー」


「見送ります」


 一緒に玄関まで向かう。


「それにしても澪さんって何でもできるんですね」


「んー、そんなこともないよ?」


「そうですか? 勉強も運動もゲームも武術だってできるじゃないですか。一体、何が出来ないって言うんです?」


「ひみつー、じゃまたゲームで会おうねー」


 そう言って澪さんは帰っていった。

 その後は母さんにあの女の子は壮太の彼女かい? など澪さんの情報を求められたり、澪さんのことばっかりで僕の怪我にはあまり関心を示してくれなかった。親としてどうなんだそれは。


 部屋に戻ると澪さんの残り香が漂っていて、本当に澪さんは僕の部屋にいたんだと言う実感が沸いたが、机の上にちょっぴりエッチな漫画を置きっぱなしにしたのに気付き、彼女に見つかってしまったとベットの上で悶絶した。

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