3話.転機
冒険者ギルドはこの町の中心に建設されており、街のどこからでもアクセスが良い場所にある。
築年数が大分たったような、古びた木造建ての扉を開けると、そこには大勢のプレイヤーがごった返している。
冒険者ギルドは食事処や冒険の道具を買い足しできる売店など、色々と揃っているので、このゲームを冒険メインで楽しんでいる人たちはあまりギルドから出ることはない。
相変わらず屈強そうなプレイヤーがいっぱいいるなーと眺めていると、シズクさんは暇そうにしているNPC受付嬢に話しかける。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませ、何か御用でしょうか?」
NPCの受付嬢は典型文を返してくる。
「クエストを受けたいんだけど」
クエストはNPCやプレイヤーが依頼を張り、冒険者がそれをこなす仕組みになっている。
「ではクエストの種類を雑事、採集、討伐の三種類の中からお選びください」
「討伐でー」
「只今、発注されている討伐クエストはこちらになります」
受付嬢がクエストの紙束を渡してくる。
ゲームなのにわざわざ紙束なんてと思うが、シズクさんはこうやって見た方がワクワク感があっていいよね、このゲームの開発者は分ってるよと言っていた。
それを聞いた僕は確かに、ディスプレイのようなもので一覧するよりはリアリティーがあって楽しいなと思えた。
「どれどれー」
シズクさんは貰った紙束を一魔一枚めくってクエスト内容を確認している。
僕もどんなのがあるのか気になるので一緒に見る。
クエストにはドラゴンやデーモンといった討伐もあるが、高難易度のクエストは僕にはまだ早い。
シズクさんは高難易度のクエストは捨てて、比較的初心者でも倒せるような弱いモンスターを対象に選んでいく。
スライム十匹の討伐、これは簡単すぎる。
ゴブリン五十匹の討伐、難しくないだろうがクエスト報酬のお金は少ない。
とシズクさんはさっさと紙をめくっていくと、あるところで手が止まった。
「ねえねえ、ソウタ君これはどうだい?」
そう言って、見せてくれたのがオーク七匹の討伐だった。
オークは経験値が多く詰まっており、しかも普通のクエスト報酬も普段より高い。
僕一人では無理だが、シズクさんがいる。
「これ、おいしいですね」
「だよねー。これにしよっか。すみませーん、これでお願いします」
「クエストを受注しました。それでは頑張ってきてください」
受付嬢の別れの挨拶を受け、僕たちはギルドを出た。
ファストトラベルを使って門の前までサクッと行くと、シズクさんはスクロールを開きシズクさんと同じぐらいの大きさを持つ槍を装備する。
あの大きさでは街中で持ち歩くのも難しい。
「ソウタ君はもういける?」
「はい、もう準備は完璧です!」
「いい返事だね、じゃあ行こうか」
準備万端のシズクさんにやる気がこもった返事し、僕たちは戦いに向かった。
◆◇◆◇
「ほんといつもご迷惑おかけします……」
「気にしないでよー、僕とソウタ君の仲じゃないか」
クエストが終わった僕はシズクさんに謝り倒していた。
「いやあれは完全に僕の油断でした」
ああ、思い出すだけで嫌になる。
クエストは非常に順調にうまくいっていた。
僕がシズクさんのサポートをし、シズクさんがオークを倒すという形で五匹ほど倒していった。
あまりにもシズクさんが華麗にオークを倒すもんだから、僕でも一人で倒せるとシズクさんの制止を押し切って、前に出た瞬間、複数体のオークに殴り殺されるという失態。
あのあとシズクさんがオークを倒した後、高価な蘇生アイテムを使ってくれて生き返らせてくれた。
が、結果としては残り数体のオークの経験値は貰えず、このクエストだけでは賄えないぐらい高価なアイテムを使わせてしまった。
申し訳ない気持ちしかない。
「ほんとすみませんでした」
「そう、自分を責めない。この失敗を次に活かそー」
優しいシズクさんは僕を優しく諭してくれる。
ほんと女神さまのように美しい人だ、男なのに。
「いつもそうだ。僕はシズクさんがいるときいつも調子に乗って、失敗する。前のゴブリン討伐クエストの時も前に出すぎて、死にかけるし、グリフォンの卵を持って帰るクエストの時も欲をかいて二個持ち帰ろうとして、こけて無駄にした挙句に親のグリフォンに殺されそうになるし、何もかもダメダメだ。結局シズクさんがいないと僕は何もできない」
大きなため息が自然に出てくる。
「まあそんなに卑下せずに、成長していこうよ」
シズクさんのフォローが逆に虚しくなる。
「僕、ほんと何をやってもうまくいった試しないんですよね……。どれだけ努力しても運動はダメ、勉強もダメ、娯楽のゲームでさえもダメ……。はあ、僕何のために生きてるんだろう」
自分の愚痴を吐いていると、前を歩いていたシズクさんが急に立ち止まった。
「シズクさん……?」
シズクさんはこちらに向き直ると、グイグイと近づいてくる。
何事かと身構えるが、顔と顔があと少しで触れるぐらいの至近距離で止まり、見つめ合う形になる。
「ソウタ君」
「な、何ですか?」
「今の自分は嫌いかい?」
「そ、そりゃあ、嫌いですよ。こんなんじゃ好きな子ができてもフラれるだけって分かりますし……」
「へえ、ソウタ君好きな人いるんだ?」
「好きな人ぐらい一人や二人はできますよ。高校生ですし」
「なら好きな子に見合った男になる特訓をするしかないね」
「はい?」
この彼女の一言が何をやってもうまくいかなかった僕の人生の転機の始まりだった。
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