西島 寛太 Ⅳ
僕は商店街の中を歩いていた。十二月の賑やかな喧騒の中一人歩いている途中だった。
所長に過去へ戻る事をお願いした後、所長は僕に目を瞑るように指示をした。僕はソファーに座りながらその指示に従った。
次の瞬間目を瞑っているその瞼の外側が急に明るくなったのを感じた。その明るさは段々と白みを帯びて一面が白い光のようなものに覆いつくされると自分を包む空気がフワッと柔らかくなったような感覚を感じた。それはとても居心地のよい包まれているような感覚だ。そのうち体が空中に浮きあがる様な感覚があり真っ白だったその景色は突然暗くなった。漆を何度も塗って作り上げる漆黒のような黒さだった。
徐々に耳に音声が聞こえてきてそれが商店街のざわめきである事が分かると僕は目を開けた。
――ここは商店街?僕は過去にたどり着いたのだろうか?
「ピリピリピリ……ピリピリピリ……」
ギョッとした。不意に僕のポケットから機械音が鳴り出したのだ。過去に来る事が出来たのかどうか思案してる僕は敵地に侵入し、辺りを窺っているいるかのような感覚だったので必要以上に驚いてしまう。スマートフォンを取り出してみるとそこには知らない番号が表示されていた。――電話?誰だろう?
「はい。西島です」
「おっ! 寛太君? 無事過去には戻れたかな?」
「里佳子さん!? な、なんでですか? この電話通じているんですか?」
電話の主は里佳子さんだった。ここはまだ過去ではないんだろうか?どうして里佳子さんから電話がかかってくるのだろう?僕はそんな事を思いながらわけの分からない気持ちで里佳子さんの次の言葉を待った。
「びっくりした? いやーさっき所長が伝え忘れちゃったみだいなんだよね。実は依頼人が過去に一人でいるのは不安だろうから私たちWB LIEの人間とスマホで連絡取れる様になっているんだよね。ただし、この電話番号やメアドの使用は過去に戻っている間だけで、更に君と事務所のスマホだけで出来るやり取りになるからね」
「そ、そうなんです。それは助かります。実際今もすごく不安でしたよ。そもそも僕は過去に戻れているんですか?」
「戻れているよ! その証拠にこのスマホで連絡取れているし、こっちにいる君の体は微動だにしていないし。ちょっとマジックで顔に落書きでもしておこうかな……」
「ちょ、ちょっと! やめて下さいよ!」
僕はこの里佳子さんとのやり取りで少し安心した。あの事務所と繋がりが保てている事は心強い。
「西島さん、梨田です。皆川君にはいたずらしないように言っておくのでその点は安心して下さい。西島さんは後悔しているウソについて集中して下さいね。今回は皆川君が担当になっているから皆川君に代わりますね」
「寛太君宜しくね! 電話を切ったら日付と時間を確認してね。七十五時間後にはこっちへ戻ってきちゃうからね。ちなみに君がWB LIE に来たのは28日だから」
そしてちょっとした会話を交わして電話を切った。僕は里佳子さんに言われたようにスマートフォンで日時を確認した。
『20××年12月19日 日曜日 14時33分』
――本当だ。過去に戻っている……。
過去に戻っている事を確認して僕は病院へ向かった。こういった状況ではあるが希美に再び会う事が出来る事実に喜びを隠せない。――また希美に会える。今度は希美を悲しませたくない。
病院について受付を済ませ、やがて希美の病室の前で立ち止まった。
十二月だというのに額に汗が滲んでいた。心が急いて早足になったといた事もあるが、緊張から来るものの方が多いだろう。これからの僕の行動で希美の自殺が防げるのだ……。
僕は目を閉じ自分の胸に手を当て、深く息を吸い込むとそれをゆっくりと吐き出した。吐き出した終わると手のひらを握りしめ――そして目を開いて目の前のドアを見据える。
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