第161話

 山の中の少し冷たい朝の空気を感じながら食べるのは白パンに鶏ハム、レタスを挟んだサンドイッチと温かいコンソメスープにオレンジジュース。塩分が体に沁みて美味しい。

 オレンジジュースもいつもよりさっぱり爽やかに感じるのは補正ってやつかな。

 通ってきた道とこれから先は森なんだけど、寝場所に選んだここはぽっかりと抜けた場所。お空の色がとても綺麗なグラデーションで見応えがある。

 夕焼けも綺麗だったけどそれどころじゃなかったわ。

 探索を使って周囲に獣がいないことは確認済み。

 それでもささっと食べ切って、再び歩き始めたのは起床してから一時間半くらいかかったかな。

 作ったテーブルは脚の長さを変えたりすればまた使えるから、そのままストレージに入れておくことにした。


 私たちが進んでいるのは、いくつかの山が山脈を作り上げている国境の道。

 人間二人が並んで通れるくらいの広さに木が切り開かれているけれど、それよりなお高い樹木に囲まれているので鬱蒼としている。

 朝の空気は澄んでいるし気持ちいいけど森林浴というには木が多すぎないかしら。

 もちろん地面は土が剥き出しで舗装なんてされてない。昨日通っていた場所はまだ階段が作られていたけど、ここはかろうじて道の形に草が刈られた形跡があるという感じ。

 そういえば巨石が転がるような崖崩れが起きたのならこっちも影響があったのかな? 

 ううん、ただ人が通ってないだけにも思える。

 木々の隙間から見える景色の向こう、右側にある山は頂上が見えないほど高いの。もしかして、この先あれを登らないといけないのかなってドキドキしている。


「山登りをしにきてるわけじゃないから頂上までは行かない。安心しろ」


 杉原さんってば振り向かなかったよね、今!

 私の内心を見透かしたかのような杉原さんの言葉にびっくり。そんな心も知らず、圭人くんが今気がついたとでもいうように右手方向の、周囲で一番高い山を仰いだ。


「あの山、頂上までは結構ありそうですね、杉原さんは登ったことがあるんですか?」

「まあな、この道は何度か通ってる。その度に同行している奴らがあの山の上まで行くのかって聞いてくるんだよ。普通の人間には無理だっっつーの。まあ俺はあの山に登ったことがあるんだがな、頂上付近に湖があって底に沈む石が全部宝石なんだぜ」

「湖に沈む宝石って、漫画みたいだ。それって何かの材料ですか?」

「使おうと思ったが俺とは相性が悪くて扱えなかった。後で圭人にも分けるから試してみてくれ」

「はい、やってみます」


 列の前と後ろで杉原さんと圭人くんがそんなことを話しているのを聞きながら、似たような景色をペースを守りつつ進んで行くと突然目の前が明るくなった。

 急に訪れた森の終わり。

 植生が変化したのか、樹木って感じから私の腰くらいの木がわさわさと生える場所に出た。なだらかな広場のようなその場所は、まるで展望台のように周囲の山が見渡せる。

 よく観察してみると地面がなだらかな方が低い木が多いのね、傾斜がきついところの木はしっかりと根を張って動いてない。もしかしてなだらかなとこって、滑って止まったとこなのかな。

 後で夕彦くんに聞いてみよう。


「杉原さん」


 夕彦くんが急に立ち止まって、囁くように杉原さんを呼んだ。


「こういう開けた場所っていうのは襲われやすいから覚えておけ。ロープ外すぞ」


 私たちはそれぞれ武器を構える。探索なんていらないほどの強い殺気。

 左右の木の影から五人のボロボロの服を着た男たちが出てきた。

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