第148話

 私と光里ちゃんは広い海を見ながら、ただじっと待ってることしかできない。

 今頃、圭人くんたちはたくさんの魔獣と村の外で戦っているのに。

 あの四人なら大丈夫、そう思いながらもやっぱり不安だし、その場に自分がいないのが余計に怖い。私に何ができるなんて思っても、知らないとこで親しい人が傷ついてしまうのは嫌だ。

 これはきっとエゴなんだろうけど。

 

 後方でトンと軽い音がした。

 オシムくんが櫓から降りてきたのかと振り向いて声をかけようとしたら、いきなりその場でしゃがみ込んで下を向いてしまってぶつぶつ呟いている。

 少し険しい表情に不安。

 結界がうまく張れなかったなんてことないよね。


「何があったの?」


 本当は空気を読んで黙ってるべきかもしれないけど、我慢できない。

 下を向いたまま眉間に皺を寄せているオシムくんに、そっと声をかけた。

 オシムくんは少しだけ間を置いて顔を上げてくれたけど、なんだか頼りない表情は普通の子供みたい。


「今、マルコットから念話で。……あ、すみません、また」


 見ていることだけしか出来ない怪訝な顔の私と光里ちゃんとは対照的に、オシムくんは真剣そのもの。時々、すごく怖い顔になるのは向こうの状況、あまりよくないのかな。

 後で聞いたら前世からの絆のおかげか、二人だけに通じるスキルがあるそう。

 今はそれ、すっごく助かる。

 でも、内容が不穏だわ。


「魔獣たちを操っている者がいるそうなんです」


 それって私が持っているテイムスキルみたいなもの?

 それとはまた違うのかな。ペットにした子を戦わせるのはなるべくしたくないものだと思うんだけど。


「結構な数なんでしょう? それを操るってどういうことかしら」

「リーダーっぽい獣を操って村に向かわせて、あとはそれを追わせる感じかな?」

「従魔にするのではなく、傀儡にするスキルでしょうね。悪意を持ってこの村に入ることは出来ないから魔獣に襲われない位置にいるはずですが。空から見るわけにもいかないし」


 いつまでも高台にいてもなので、来た道を引き返しながら三人で話す。

 襲ってきている魔獣の数、正確にはわからないけど数千、下手したら万という単位かもしれないそう。

 それでも剣と魔法で凌いでいるって。


「空から見てもらえるわ! エリックに頼んでみる」


 私はエリックに事情を話して魔獣の群れの周り、安全なところで術を使ってそうな人間がいないか調べてもらった。


『ありす! 見つけた! 杖を持って村の方に魔獣を誘導してる。僕はありすの従魔になってるから効かないけど、そうじゃなかったら危なかったよ!』

『それ、どんな人かわかる? あと大体の場所も教えて』

『村からずーっと東。街との間くらい。痩せててこわーい顔した男だよ』

『ん〜、髪の色とかわかる?』

『枯れた葉っぱの色!』


 枯れた葉っぱの色と聞いて私の頭に浮かんだのは朽葉色の髪に榛色の瞳を持つ、領主の従兄弟だけど本当は実の弟だというラステリー・ガルデン。

 そこまで悪い人じゃないといいんだけど、この状況だと他にこんなことをしそうな人がいない。


「今、エリックが術者を見つけたかもしれないんだけど、それが」


 あの人かもしれないということを話すと二人とも納得している。


「やりかねない」

「小悪党っぽかったけど、随分大それたことしでかしてくれたわね」


 光里ちゃんが指をパキパキ鳴らしている。笑顔が、ちょっと怖いです。


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