第137話
「こんな快適な馬車は初めてです」
そう言いながらオシムくんは、渡したレモンスカッシュを美味しそうに飲んでいる。馬車の揺れが少なくて座席のクッションの固さがちょうどいいのが気に入ったそう。
ガルデンからの使者は自分達の馬を使っている。彼らは荷物が少ない上に野宿に慣れているそうで、一応馬車への同乗を勧めたんだけど丁寧に辞退されてしまった。
オシムくんを街に迎えるために来たにしては軽装なのが気になるのよね。
「それにしても、マルコットさんったらあんなに心配するなら来れればよかったのに」
「僕たちどちらかがいないと紡績の機械の故障を直せないんです。最近ガタがきちゃって壊れやすいんですよね」
出発前にマルコットさんがオシムくんの準備を手伝ってくれた時、あれもこれもと世話をやくマルコットさんを見ていたら、もしかして前世もこんな感じだったのかしらと思ってしまった。
仲のいい姉と弟のような二人。白い人はどうして彼らを転生させたのかな。
紡績の機械か、仕組みはよくわからないけど何をするためのものか理解できたら創造で作ることができるから、街から帰ってきたら協力させてもらおう。
私がそんなことを考えている間、夕彦くんがオシムくんから色々な話を聞いていた。
「じゃあ、オシムくんはガルデンに行ったことがないんですね」
「そうなんです。村長になる時も僕じゃなくてマルコットが街に行って領主のサインをもらいました」
「ずいぶんいい加減な。いえ、その場合はそれが功を奏したのですね」
「まさか十歳の子供が村長になるのを許されるとは思いませんでしたが、きっと書類を細かく読んでいなかったんでしょうね。ただ、事業がうまく行って納税額が増えているこの村を調べてみたら、村長がこんな子供だったので慌てているみたいです」
「そこで領主の親戚連中が甘い汁を吸おうとしているわけですか」
なんだか酷い話ね、オシムくんとマルコットさんが一生懸命やってきたことを横取りしようとしているんだもの。村の人たちだって彼らに協力してうまく回っているように見えた。みんな笑顔だったから。
「今夜はどこかで野宿しないといけないが、小屋は出さないでテントにしよう。ストレージに気づかれても面倒だから適当に今のうちに荷台に用意するぞ」
杉原さんの指示で私と夕彦くんは荷台にテントと寝袋、それに食料と鍋、食器などを出した。
夕飯は簡単で美味しいものがいいな。人数が多いからシチューにしようかな。
パンを多めに出さないとね、オシムくんは十三歳の食べ盛り。圭人くんと杉原さんもいっぱい食べるし。
食事も野宿も使者とは別々で、特に何をされるわけじゃないんだけど変な感じ。話しかけてはいけないとか関わってはいけないって言われているのかな、そのくらい距離を置かれている。
夕飯のシチューは圭人くんとオシムくんのおかわり合戦だった。寸胴鍋いっぱいのシチューがみるみるうちに減っていく様子は圧巻だったわ。
夜は星を見た後にすぐ就寝。大型テントの中に仕切を作って、私と光里ちゃんのスペースは確保されている。念の為テントにも結界を張っておく。
自分で結界が使えるオシムくんにはすぐに気が付かれたけど、使者にはわからないんじゃないかな。
一晩明けて、浄化をかけてもらい、パンとジャムの簡単な食事を済ませたらすぐに出発。
昼前にはガルデンの街に到着した。
街に入った途端、それまで黙っていた使者にいきなり声をかけられて少し驚いてしまった。
「俺たちの仕事はここまでだ、無愛想で悪かったな。オシム村長はこのまま領主の館に行ってくれ」
そのまま雑踏に消えてしまったけど、いいのかな。領主の館まで案内されるのかと思ったのに。
「ここまで連れてくるのが仕事だったんだろう。まあ、面倒なことはさっさと済ませようか」
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