第12話:師弟対決、わたしの成長見てください!
思えば、たった1日の出来事だった。
『す、すごい……』
『大丈夫? って初心者さんか』
名前の横についていた若葉マークを見て、全てを察する。
アステとの出会いは初心者イビリから始まった。
当時は少しだけ気が弱そうだった彼女が、こわーい初心者狩りの人々に絡まれるのはある意味必定だったのかもしれない。
通りかかった私がいなかったら、今頃アステはこのゲームをやめていたかもしれない。であるなら、この出会いもまた運命だったのだろう。
『……カナタ、ちゃん?』
『ん? よく知ってるね。一応このゲームじゃ有名みたいだし』
初心者ながら、私の名前を一発で言い当てた目の前のアステの顔は今でも覚えている。
少し口が半開きで、目がまんまると描かれており、赤い瞳が火星みたいだなーって、綺麗だなーって思ったっけ。
手を差し伸べれば、ハッと我に返って、私を頼りながら立ち上がる。
『……そっか。そうだよね』
『どうかした?』
『いえ! わたし、カナタさんに憧れてこのゲームを始めたんです!』
『……憧れる要素あった?』
『あります! 強いところ!』
別に個人ランク2位のべディーライトとか、1位のムサシ・キョウコほどじゃないんだけどな。
上と見比べ、自分はそれほどこのゲームが上手くはない。だから強いところなんてものはないはずなんだけど。
でも彼女は言ってのけた。昔、誰かから言われたようなそんな言葉を放って。
『決して諦めないところが、憧れます!』
◇
「アステは、そういうタイプか」
「行ってください、《マジック・ロケット》!」
言の葉が紡がれた魔力の塊が鋭角に動きながら、私を攻め立てる。
このゲームには職業、というよりも魔法のタイプが3種類存在する。
身体強化や物理攻撃が主になったアーミー型。
アイテム作成、錬金術に特化したクラフト型。
そして、アステが使う魔力をエネルギーとして放射するマジカル型。
アーミー型がこのゲームでは強いものの、それはプレイヤースキルによる依存が大きい。
頭が良ければクラフト型に票が上がるし、純粋な火力面ではマジカル型は他の追随を許さないほどのポテンシャルを持っている。
避けた魔力砲によってビルの一部分が融解しているのに、少し背筋に寒気が走る。
アレに当たれば、おそらく大ダメージは免れない。《プロテクション》でも許容を超えるだろう。
……なら。
:カナタが動いた!
:糸が、10本?!
「《ヘブンズストリングス》!」
指先から放出される魔力の糸。計10本。それを箒に乗ったアステの方へと差し向ける。
目標は絡め取られる前にと、直線に伸びる糸の数々を丁寧に魔力弾で処理していく。
手ほどきはまさしく教えたとおりというか、昔から筋がよかったからこそ、3ヶ月という短期間でCランクに上がった女だ。おそらく、ランク以上の実力がある。
嫌というほど教えられた才能を覆すのは、いつだって経験と努力。たったその2つだけだ。
「《ギアアップ》」
身体強化のスキルを加えて、私は『階段を登る』ように空を駆け始める。
:なんで空中で走ってんの?!
:そんなとこに当たり判定ないだろ!
:……いや、あれは床ジャン使ってるな
:なにそれ?!
やっぱり見抜ける人は見抜けるか。
『床ジャン』とはこのゲームでの空中を速く走る方法の1つ。
空中に魔力の床のようなものを作って、それを足場にジャンプする。
使っている人はいくらでもいるが、それでも上級者が使うテクニックで、MPの消費も激しい。リソースを吐いてるのだから当たり前だ。
:つまり空中でも地面と同じ感じで戦える、ってことッ?!
:ここでミソなのが、落ちたらほぼ即死な
:わっ!
:でもカナタちゃんならいける
アステの移動速度よりも速く、このナイフを突き立てれば、勝てる。
もちろんその先にあるのはアステだけではない。
「なら、バランスも崩しやすいはず!」
無数に散りばめられた魔力弾。いや魔力爆雷。
任意のタイミングで爆破させられるそれを、巧みに操るのも流石アステと言ったところか。
だけど、それは私の障害にはならない。
指先に5本の糸を取り出せば、ぐるぐると回転させて、ドリル状のバリアへと姿を変える。
:器用すぎんだろ
爆雷を事前に処理しながら、爆風も糸の風圧で絡め取る。実質ダメージ0の状態で、アステのそばまで接敵する。
苦そうな顔をするアステだが、それでも逆転の手立てはまだ残っているようでその表情には余裕があるように見えた。
「だったらっ!」
武器である箒から立ち上がればその箒を後ろへと突き立てる。
分かっている。そうすればこのドリル状の糸がどうなるか。
:逆に巻き取られた?!
「これで、おしまいです!」
箒の毛の部分。無数に束ねられた毛の先が1本1本光を帯び始める。
それはまるで星々の輝き。1つ1つは小さな星屑であるが、まとまればそれは強大に膨れ上がる。
輝けし星。その名をアステは雄々しく、猛々しく宣言した。
「《シリウス・バスター》!!!!」
私を飲み込まんとする銀色の流星群が列をなして襲いかかる。
なるほど、アステはこういう必殺技だったか。
だけど、それはスキを生じる。その射線上に、もう私はいない。
:避けた?!
:そっか、糸を切ったんだ!
経験は人を裏切らない。
絡め取られた時点で、ヘブンズストリングスとのリンクを切った私は、ただただしたへと落ちる人形となっていた。
しかし、光を帯びた魔力砲が影になってアステには見えていない。
「だから私のナイフが届く」
「……流石です、師匠」
おそらく、私とアステが同時に始めていたら、私が負けていただろう。
それは経験の差。研ぎ澄まされた勘は、実力は、そう簡単に覆らない。それが、ゲームなんだ。
:8888888888888
:888888888888888
:88888888
:gg
:いい戦いだった
「ありがとね! いやぁ楽しかったー!」
それから軽い終わりの挨拶とチャンネルの宣伝を行って、配信は終わりとなった。
流石にアステとの試合で結構集中力使ったし、しばらく休も。
そばにあった瓦礫の山に身体を放り投げる。痛い。破片がデータに食い込んだ。
「お疲れさまでした、師匠!」
手に持った2本のスポーツドリンクの片方を貰って、喉の奥へと液体を流し込む。
冷たいモノが喉を通り、潤いが体中を満たす。この瞬間が生きているって感じだ。
「ぷはぁ!」
「……あの、師匠」
「ん?」
何さ改まって。
地面に正座する彼女はさながら今から土下座でもしようかという面持ちだ。
わざと軽くあしらいながら、内心ビクつく私。
弟子やめますとか言われたら嫌だな。
「ありがとうございました! 本気でないにしろ、戦ってくれて!」
「当然だよ、友達なんだから」
当たり前なことを言うなぁキミは。
しばらく自分の言ったことを反芻させる。……あれ。今、私友達って言っちゃった?
「師匠……!」
「やっ、違う! 今のは言葉の綾というか、ほらそうでも言わないとアステ変に落ち込みそうだった――」
「師匠ーーー!!!」
「だ、抱きつくなー!」
露出したおへそ辺りがアステの髪の毛でこすられて少しくすぐったい。
必死に引き剥がそうとしても離れないこのバカの顔を見ながら、1つため息を吐き出す。
しょうがない大型犬だこと。
それでも、私の涙に濡れた心を乾かしていくには十分な陽だまりだった。
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