「罰金弁償か話し合いで解決して貰いたいものだ」


「そうですが、この場合の被害者はアンドロイドを所有する人間です。それに被害者はアンドロイドに大抵情がありますし只の家電とは思っていません。器物損壊罪として懲役が科されたとしても納得いかない部分がある訳です。それに家電にしたって腹は立ちますよ。冷蔵庫でも洗濯機でもね」


「そのうち誘拐まで発生するかもしれませんね」


「腹を立てる気持ちは分かる。しかし仮に被害者が人間の場合と同じ罪を適用しようにも、アンドロイドに限らず人間相手でも「合意の上」で終わっているパターン多いだろう? 」


「確かにその通りですが、アンドロイドに対する性犯罪に対して何らかの法を設けた方がいいように思います」


「全く面倒だなあ。だったら常に目を離さず、挑発的な格好で歩かせるのは止めさせるんだ」


「挑発的な格好とはどのような?非常に主観的な問題のように思いますが」


 尾形の語気が少し強くなる。


「胸元を露にしたりミニスカートを履いたりだねえ」


「性的興奮を煽らないように配慮された学校の制服に興奮する変態が大勢います。学校の規則なので女子高生に着るなとは言えませんし。わざわざ買う変態もいるんです。いっそ制服は禁止とすべきでは? 」


 尾形はつい皮肉めいた口調になっている事に自分でも気付いていた。


「どうせ丈を短くしてるんだろう。尾形君、君のお父さんには随分助けて貰ったよ。だからこそ君は此処にいる。分かってるんだろうね」


 園田の目は笑っていなかった。

 俺に意見するのか、と言いたいのだろう。


 尾形が30代で大臣に抜擢されたのは代々政治家という血の為せる技であり、曾祖父も祖父も父も園田一族を支えてきた故の親の七光りである事は重々承知している。


「……では総理はどのような対策をお考えですか? 」


「幼女だけでなく女性型の性器も塞いでしまえ!それが手っ取り早い! 」


「男性型はどうしますか? 」


「男性型?ぶら下がってるだけと言ってただろう」


 園田はイライラと指で椅子の肘掛けを叩いた。


「はあ……女性に対しては不能ですが、中には男性型の尻を狙う物好きも……」


「だったらケツの穴も塞げーー!!アンドロイドに性別なんていらん! 」


「では下半身は仕様変更、と」


 村井は段々意見を控え書記の仕事に撤し始めていた。


 それで根本的に解決するとは尾形には到底思えなかった。

 もう一つの対策としては容姿そのものを機械的な嘗ての垢抜けないロボットのように変えてしまうという方法がある。


 だが政府が開発の為に多大なる資金援助を行い現在のような人と見紛う進化を遂げてきたというのに、そこを変えてしまったら、この国のアンドロイドの発展は進路を見失ってしまう。

 機能面でもそうだが人型ロボットの目標は、如何に人の滑らかな動き、表情、臨機応変な対応力を模倣出来るかだからだ。


 性犯罪の犠牲者にならない為に容姿を敢えて醜くするというのもどうだろうか。

 それに醜くというのも主観的であり、レイプ被害者には美醜も年齢も、性別すら関係なく存在する。

 レイプとは若い女性だけではなく、時として家畜にさえ行われ、残忍な暴行により傷を負うだけでなく、死に至るケースもある。


 罪を犯しても罰せられない悪事がバレない、コイツにならば何をやっても許される、優位な立場で正義の剣を手にした時、人とは通常では考えられない残虐性を発揮する。

 胸に抱えたあらゆる鬱憤や欲望を解消出来る相手がアンドロイドであり、都合良く人にそっくりときている。


 今回の幼女型アンドロイドに対する暴虐に対しては殆どの国民が眉を潜めたが、中には「彼女」のようなものがいれば、本物の女子供に対する性犯罪が減るのではという意見もあった。


 だが例えアンドロイドであっても、幼女の姿をしたものに残忍な暴行を加える狂暴な男が危険である事に変わりはない。

 人間に対する犯罪でさえ、一旦は檻に入れられても忘れた頃に野に放たれ同じ事を繰り返す。


 しかも善良な人々には何も知らされずに──


 今や世界中でアンドロイドの労働力は欠かせないものとなってきている。


 人では危険過ぎて出来ない仕事に打ってつけで、災害援助、人命救助、作業現場、医療現場、警察、消防局でも大いに貢献している。

 単純作業にアンドロイドを積極的に用いている企業も少なくない。

 人とは違い不満を漏らさず能率が一定なのも重宝される点だ。

 それに一度購入してしまえば、人一人に掛かる経費を大幅に削減出来る。

 無論、機械そのもののロボットも活躍しているが、人型であるからこそ用途も幅広いのだ。


 確かにアンドロイドには性器など不要なのかもしれない。

 但し全ての悪質な犯罪をそれで防ぐ事は出来ないだろう。

 そうは思っても独裁者園田を納得させるだけの意見が浮かばなかった。


 尾形が考えを巡らせているうちに別の問題に話しは移った。



「問題は風俗、AV等ですが」


「まだあるのか──」


「アンドロイドでもそうですが、セクサロイドの場合は特にカスタマイズしたがる傾向がありますし、様々なお客のニーズに応えるべく、無料ではありませんがオリジナルで「試し」て、足りない部分を追加するというサービスもあるようです」


「それを繰り返す客もいそうだな。殆ど風俗と変わらんじゃないか」


「男女共に意外とそれは少ないそうですよ。レンタルにデリヘルもありますが。カスタマイズする際の傾向としては、女性客の場合は分かりやすく、もっとイケメンにしたいとか、後はペニスの大きさです」


 文部科学大臣の三枝が下ネタ紛いの発言を内輪だからとばかりに平然と吐いた。


「それは分かり易いなあ」


 部屋の中にどっと笑いが起こった。


「男性客は違うのかね?同じだろう?胸の大きさとか、尻の大きさとか。アソコの締まりとか」


 また笑いの細波が起こる。

 若いといっても38歳だが、この場では最年少の尾形佑馬は笑顔がひきつるのを自覚した。


 女性を含めた全閣僚の中でも彼は一番若い。

 この国の閣僚の特徴は、女性の比率が極めて少なく他国に比べ50代以上という高齢者で占められる保守性にあった。 


 その為、自由自在党を縮めて自自党。

 語尾を延ばしてジジイ党と密かに揶揄されていた。


「しがらみ」だの「付き合い」だの、或いは「空気を読む」だのと言った、この国には曖昧な表現が多過ぎる。


 そこがこの国の良さでもあるのだが、政治、特に外交においては、そうした馴れ合い感情は寧ろ短所となる。


 だが、この国の閣僚として空気を読むならば此処は笑うべきところだ。


 





 

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