213:イリスとディアナのその後
「まぁ、重罪だからね。当然死刑になってもおかしくはないんだけど、勿体ないんだよね。あの二人。」
「勿体ないって?」
「あれだけの魔力だろ?それに彼女、ディアナは獣人だけあって身体能力が高いからね。こちらとしては使わない手はないと思ってさ。」
ユージィンはお茶を啜りながら、笑顔で話をしていたが、ユージィンの背後から黒いオーラが見えているようなそんな錯覚に陥った。
「えーと叔父様?刑罰がないなんてことはないと思うけどイリスとディアナに一体何を?」
「取り敢えず彼らにはね、『隷属のリング』を付けさせてもらった。」
「何それ?!名前から既に物騒なんだけど?」
セレスティアは、詳しくはわからないが、名前から絶対によくない物だと言うことは確信できた。
「まぁ名は体を現わすというか・・・わかりやすいわよね。」
イシュタルも苦笑いをしていた。
『隷属のリング』は、黒い石がはめ込まれた銀色の指輪である。その名のごとく主に逆らうことはできず、逆らおうとした場合にはその身に激痛が走るのだ。それでもさらに逆らうことを止めない場合は、死を迎えることになるという、呪いのアイテムであった。イシュタルはそれを知っているのだ。
「何せね、今回は『竜の祖』や『魔王』といった案件だけに公にできないことだらけで、どのみち正規の裁判にはかけられないんだよ。で、どうせなら今後は僕の役に立ってもらおうと思ってさ。」
そういったユージィンは悪い顔になっていた。
「お、叔父様、国にってことならわかるんだけど、どうして「僕」って一人称なの?」
「だって、僕が持ってきたアイテムだからね。国は関係ないし。それに今回の事は王からも僕が一任されたし、いいだろ?」
セレスティアははっきりと分かる訳ではないが、何やらユージィンに対してきな臭い物を感じ、ジトっと見つめ、
「叔父様・・・伝説の武器といい、その怪しいアイテムのことといい叔父様の方が魔王みたいで怖いんだけど?」
「ふふ、酷いなぁ。僕はフェリス王国の竜騎士団を束ねる団長で、そしてイシュタルの唯一無二の存在であるだけだよ。」
「ふーまぁいいわ。私の叔父様であることは変わりないんだし。」
叔父であるユージィンについては、自分が知らない何かがあるのだろうということをセレスティアは感じ取っていた。だが幼い頃からユージィンが自分を可愛がってくれたこと、そして継母らの意地悪から助けてくれたことは紛れもない事実であることから、(叔父様の正体が何であれ、私の大切な叔父様であることはかわりないものね。)そう結論づけた。
「・・・ディアナ本当にいいのか?俺に付いて来て?」
「はい!私はお傍にいるって決めましたから。」
ディアナはイリスに微笑んでいた。
「・・・ふん、物好きな女だな。わざわざ敗軍の将に、好んで付き合わなくてもいいと思うが・・・・」
イリスの魔王化についての計画が成就することは適わず、それが無駄であったというなんとも間抜けでみじめな結果であった自分に、それでもディアナは一緒に付いて来ると言ったのだ。イリスは憎まれ口を叩きつつも、悪い気はしていなかった。
「俺はお前を利用していただけなんだけどね・・・」
「そんなこと、初めから知ってますよ。それでもです。何であれ、私の仇を取ってくれたことには変わりはないですから。」
ディアナは決めていたのだ。自分の復讐を成し遂げてもらったこと、家族を窮地から救ってくれた時から、イリスに付いて行くと決めていたのだ。そして何より、自分の気持ちに気付いた時から、突き放されない限りは傍にいようと決心していたのだ。
「それでも・・・か。変わってるなお前は。」
「イリス様ほどではないですよ。」
イリスは、ディアナに少しだけ笑みを見せた。それを見たディアナはドキっとした。
「まぁいい、先を急ごうか。早速あの方からいただいた初任務だからな。」
「はい!」
そして、グリフォンに乗った二人は任務を全うすべく、颯爽と駆けていった。
「まさかこんなことが・・・でもお前によく似た男の子だ。水色の髪はお前譲りだな。」
「そうね。だけど、赤い目と耳は貴方にそっくりだわ。」
二人は、生まれてきた子を見て、初めは驚愕した。本来であれば、男子であれば魔人である男の特徴の色彩、髪は黒、瞳は赤であったのに、生まれてきた子はハイエルフの水色の髪であったから。だが、二人は生まれたばかりの赤ん坊を見ていたら、そんなことはどうでもよくなっていた。
「名は決められたの?」
「あぁ『イリス』だ。この子を見てひらめいたよ。古代語で意味は『大切な人』というんだ。」
「イリス・・・ね、とっても綺麗な響きだわ。」
「イリス、優しく強い男になってくれ。」
「私は・・・とにかく健やかに育って欲しいわ。」
「「愛してるよ、イリス・・・」」
キャッキャッ
赤ん坊は、まるで応えるかのように無邪気に笑っていた。
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