156:港町テル・ホルストにて

 ユージィンも、今回の遠征には勿論参加しており、場所はフェリス王国の北北東にある海辺にあるテル・ホルストの港に来ていた。ここは海に面しており、漁港で有名な港でもあったのだ。そしてこちらも、セレスティアやハインツが派遣された先と同じように魔物の被害にあっていた。こちらは海辺ということもあり、海に生息している魔物の襲撃が主であり、漁港というだけあって、当然船を出す事が適わず、漁村の村人たちは困っていた。


 ユージィン率いる竜騎士達は、騎馬隊よりも一足先に到着し、他と同じように現場検証を行っていた。


 「さて・・・と。」


 『キュウ・・・』


 ユージィンとイールは部下たちの報告を聞き、そして漁村の上空から被害状況を確認していた。


 「ごめんねイール。できれば避けたかったけど、そう言う訳にいかないようだ。」


 『キュー・・・・』


 イシュタルこと、赤い飛竜イールは悲しそうな泣き声を発していた。


 「これだけの規模の魔物を使役しているのは、間違いない魔王化が始まっているんだろうね。ヴェリエルの番なのは間違いないだろう。姉弟喧嘩はさせたくなかったんだけどね・・・」


 『キュキュー(ユージィン、覚悟はしていたから気にしないで)』


 イールは、ユージィンの気遣いがわかってはいた。だが同時にこれから起こるであろう戦いに心の準備は既にしていたのだ。

 

 6つのエリアで魔物が発生していたが、本音のところはユージィンはある理由から本当はテル・ホルストにはあまり来たくなかったのだ。しかし、こちらは港であることから、他の国との貿易があることと、テル・ホルストを治める貴族領の伯爵からの直々のご指名だったので、ユージィンはこのテル・ホルストに来ることになったのであった。



 「やぁやぁやぁ!かの有名な竜騎士団の団長ユージィン殿に来ていただけるとは!光栄の極みですな!」


 テル・ホルスト港を貴族領に持つ、ホルスト伯爵がユージィン一行を迎えていた。


 「まぁこんな時でなかったらですけどね。」


 ユージィンはやれやれと言わんばかりの両手を広げてみせた。


 「仰る通りですな。ご覧いただけたと思いますが、港は魔物に荒らされてしまい、船も出せん状況です。船を出せないと我々はおまんまの食い上げですからな。それに他国との貿易も兼ねているだけに、国としても大打撃です。本当に困っているのですよ。」


 魔物の襲来によって、港は休航を余儀なくされたのだ。当然運航がストップすれば輸入も輸出も立ち行かなくなるため経済も滞ってしまう。他国が関係してくることから、余計に団長であるユージィンがこちらに赴くことになったのだ。


 「ここは竜騎士団長の華麗な手腕に期待をしておりますれば、早期の解決に期待しておりますぞ!勿論ご協力は惜しみませんので、何なりとお申し付けください!」


 「そうですね。僕としてもご期待に添えたいとは思いますが、まずはその為にも調査はしっかりと行わさせてくださいね。」


 「勿論ですとも!竜騎士団の方々もですが、あとから来られる騎士団の方も私の屋敷を拠点にしていただければと思いますので。庭には飛竜を待機させることもできますからね。ご遠慮なく!」


 「あぁ、お手紙にもそうありましたね。ではお言葉に甘えて、お世話になります。」


 妙にテンションの高いホルスト伯爵ではあったが、好意的ではあったので、ユージィン的には調査がやり易くなるので有難かった。

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