142:ハインツの前世~⑥~
その知らせが入ったのは、ハインツが騎士学校に入って数年が経った頃だった。
「うそだろ?」
ハインツは姉からの手紙で思わず声が出てしまった。
姉ペトラからの手紙には、とある貴族の家でお世話になるというものだった。ハインツはおかしいと思った。というもの、姉がそういうタイプではないからだ。(世話になるって・・・そういうことだよな?働くなら働くって書くはずだ、それが世話になる・・・)
貴族の家で働くいうのならまだしも、『世話になる』と手紙にはあったのだ。その意味がわからぬほど、ハインツは疎いわけではなかった。姉は美しい見た目から、そういった、つまりは妾にならないか?という話があったのは知っていた。実際ハインツが村にいた時も姉がそういった話を持ち掛けられた現場に居合わせたことがあったからだ。だがペトラはそういった話には、真っ当にに働いていたいと、ガンとして断っていたのだ。なのに、今になってペトラがその話を受けいれたとは、到底信じられるものではなかった。
(今度の休暇は絶対に家に帰ろう!自分の目で確かめるんだ!)
ハインツはそう決めて、次回の長期休暇が待ち遠しかった。
数か月後、長期休暇にハインツは地元の村まで帰省した。
「ただいまー!母さん?!え?」
そこには早速衝撃的なことが待ち受けていた。家にいるはずの母の姿がなかったのだ。母親が本来寝ているはずのベッドはもの家の殻。それどころか、ベッドどころか、家自体が数日誰も住んでいなかった様子なのは、部屋を見まわしてすぐにわかった。
なぜ・・・なぜ??ハインツは訳が分からなかった。姉の手紙には母は少し調子が良くなっていると記されていたからだ。だから、家にいると思い込んでいた。
(調子がよくなったから外出している?いや、家の様子はそんな感じじゃない。明らかにしばらく家を空けている。なぜ?)
ハインツが考えを巡らしていると、家のドアにノックが響いた。
コンコン
「はい、どちらだ様でって・・・」
「あぁ、ハインツ!やっぱりハインツだね?!大きくなったね!」
そこにはハインツの姿に感動した、隣人のおばさんのマイネが立っていた。マイネは、以前からよくハインツの家の事を気にかけてくれていた気のいい隣人であったのだ。
「マイネおばさん、あぁ、調度よかった!家に母さんが、姉さんもいないし一体どうなったのか・・・」
ハインツは明らかに戸惑った様子であることから、マイネは察した。
「・・・やっぱり知らなかったんだね。」
「え?どういう??」
「あんたの母さんはね、今病院なんだよ。あれから病状が悪化してね。それで大きな病院に入ってるんだよ。」
「!!ど、どこの病院に?」
「確か・・・クレア大病院だったかしら・・・」
「ありがとう!マイネおばさん!僕行ってくるよ!」
ハインツは慌てて町にあるというクレア大病院に駆け付けることになった。
どうして?!姉さん、母さんの具合がよくなったんじゃなかったのか?どうして良くなっただなんて嘘をついたんだ!もしや、心配をかけたくなくて、あんな嘘を書いたんだろうか?それとも手紙の出した後に病状が悪化したのか?
ハインツは病院に向かいながらいろいろと考えを張り巡らせていた。
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