134:番の理由~前編~
イリスが来た。だが、以前とは状況が違った。
あいつの匂いが付いていた。本来なら現れてもおかしくないのに、いまだ姿を見せない兄、ヴェリエルの匂いがイリスにほんの少しだけど匂いが付いていたんだ。
事態は恐れていたことになりつつあるようだった。本当はできれば言いたくなかったけれど、きっとそうも言ってられないだろう。だから俺はセレスティアに今までわざと黙っていたことを話すことにした。
「セレスティア、単刀直入に言おう、『器』とは『魔王の欠片』を魂に持つ者だ。」
セレスティアは一瞬何を言われたのか、わからなかった。イリスに『器』だと言われ、カイエルは、それは『魔王の欠片』を持つ者だという。いきなりの展開にまさか自分が魔王に関連しているなどと夢にも思わなかったからだ。
「え?カイエル何を言ってるの?魔王って昔、世界を混沌に陥れようとした、あの伝承で伝えられている魔王のこと?」
にわかには信じがたい話であったが、こんな時にこんな冗談をいうカイエルではないことは、セレスティアにとって疑う余地はなかった。
「そうだ。つまり、俺たち『竜の祖』は『器』が魔王にならないようにする為に、番と決められているんだよ。」
そういうと、カイエルは少し寂しそうな顔をした。
「え・・・まって、番は、カイエル達『竜の祖』が求めているのではないの?」
そう、私は『竜の祖』が番を求めていると思っていた。だって番なんて概念は、獣人以外の人族にはないもの。だけど、カイエルは横に首を振った。
「『魔王の欠片』を持つ『器』は、必ずといってほど、生い立ちが薄幸であることが多いんだ。まるで『魔王の欠片』をわざと刺激するかの如くな。」
「刺激って・・・どういうことなの?」
「『魔王の欠片』はな、負の感情に誘発されて大きくなるんだよ。怒り、嘆き、恨み、などにな。」
セレスティアはカイエルの言った、生い立ちが薄幸と聞いて、ハッとした。言われてみれば自分も幼い時に、継母や義妹から虐げられていた時期が少なからずあったからだ。
「そういった不遇な環境で育った場合には負の感情が蓄積されることで、魔王になってしまうんだ。だから俺達はそうなる前に、番を見付けるようになっているんだけどな。だけど見付けるタイミングはバラバラだ。こればっかりは突如告知されるようなモノだからな。俺達もこの広い世界で見つけるのはなかなか大変なんだよ。」
「待って・・それじゃ・・・何?番って決められていたってことなの?」
「・・・そうかもしれないな。初めは渋々だったけど、結局俺達はソレを受け入れたからな。」
「受け入れた?一体どういう意味・・・?」
「今から話すのは、遠い遠い昔話だ。」
カイエルの語ってくれた内容は、本当に遠い遠い昔の話だった。
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