107:エメリーネとダンフィールとの別れ
「い、いろいろと助けてくださり、本当にありがとうございました!」
エメリーネはユージィン邸の玄関で深々とお辞儀をしていた。『炎舞の腕輪』を取り返すことができたので、エメリーネのラパル村に帰宅することになったのだ。ダンフィールは勿論エメリーネと今後は行動を共にする。見送りには、セレスティアの裏方を手伝った同期達、ユージィンと『竜の祖』達がいた。
「本番のお祭りでは頑張ってくださいね。」
「は、はい!」
「・・・気を付けてな。」
ケヴィンはぶっきら棒ではあったが、彼なりの挨拶だった。
「ケヴィンさんのヴァイオリン本当に素敵でした!私あれで目一杯踊ることができました。」
「・・・そう言ってもらえると、演奏した甲斐があったな・・・」
ケヴィンはちょっと照れていた。
「今度はぜひ、真正面でエメリーネちゃんの踊り見せてくれよな!」
ノアベルトは、真正面から見ることをやっぱり諦めきれていなかった。
「はい、ありがとうございます!必ず!」
「なんじゃ、合った早々に旅にでるとはの。せわしないのぉ。」
アンティエルはさすがに皆がいるので、今は大人の女の姿をしていた。
「ダン、せっかくだからもう一晩くらい泊まっていけばいいのに・・・」
アンティエルとラーファイルは、久々にダンフィールに会えたと思ったら、すぐさま旅に出ると聞いたので、難色を示していた。
「すまんな。だがわかると思うが、俺は番の傍にいたんだ。」
「・・・そうじゃな。無粋であったな。」
「あ、そりゃそーか。」
ダンフィールの言葉に、アンティエルとラーファイルはすぐさま気が付き、理解したのだ。自分達も逆の立場なら同じことをするとわかったからだ。
「あ、あの私やりたいことが見つかったんです。」
エメリーネモジモジとは恥ずかしそうにしながらも続けた。
「え?というと?」
「昨日、踊りを披露する場を与えていただいて・・・私それで決心をすることができたんです。『踊り子』になろうって!」
「踊り子?ですか?」
「はい!昨日たくさんの声援をいただいて、自信が付いたんです!それで、いつかは、『女神の踊り手』になりたいと思っています!」
『女神の踊り手』は『踊り子』の上位クラスで、特定の条件が満たされないとなれない職業なのだ。 特定の条件とは、踊りと楽器を司る女神のうちの一人アクネシアに認められ、女神の加護を与えられた者だけが『女神の踊り手』の称号が貰えるのだ。余談だが、踊りと楽器をつかさどる女神は3姉妹の構成でできている。長女が踊りを司り、次女は歌を、三女は楽器を巧み演じることができると言われているのだ。
「私が言うのも憚れますけど、エメリーネさんならきっとやり遂げると思いますよ。」
セレスティアのこれは本心であった。あの素晴らしい踊りができたエメリーネなら、夢を掴めるであろうと。かつての自分のように。
「あ、ありがとうございます!」
エメリーネは花のような笑顔をセレスティアに向けた。
「おいおい、そんな顔を俺意外に向けないでくれ。」
ダンフィールは、エメリーネの顔にそっと手を添えて自分に向けさせた。
「え?え?えーとごめんなさい?」
エメリーネはよくわからなかったが、取り敢えず謝った。
「・・・・俺の番が尊い・・」
エメリーネの表情に、しゃがんで身もだえるダンフィールであった。だが、そこに容赦ない言葉がテオから発せられた。
「ふーん。その割にはちょっと前まで、別の女性とつるんでたのにね。」
皆一斉にテオの方に「空気読めよ!」的な眼差しを向けたが、向けられた本人はどこ吹く風であった。テオは思い出したのだ。出張先でダンフィールとディアナに合った時のことを。ダンフィールの容姿は特徴的だ。ただでさえ、ガタイがいいのに、褐色の肌でそして顔もイケメンとくれば、忘れるはずがなかった。テオとしては、あまりのダンフィールの変わり身にちょっと意地悪を言ってみたくなったのだと、後ほど語っていた。ちなみにハインツは、当然事情は全て知っている。
「うっ・・・」
ダンフィールにはかなり痛い言葉で、途端に落ち込んでしまった。
「・・・知っています。匂いがついていたので。」
ダンフィールに少し同情的な眼差しを送りながら、エメリーネは言葉を続けた。
「人間の方の事情は知らないのですが、私達獣人は、稀に『番』という最も自分に適合していると言われているパートナーが存在するんです。」
「え?獣人にも番ってあるのですか?」
セレスティアの言葉にエメリーネは頷き、
「はい、だけど絶対にその番と結ばれるって訳ではないのです。なにせ番に出会うこと事態が、本当に稀ですから。だけど・・・」
少し暗い表情で放った言葉は深刻な内容であった。
「ダンフィールさんのように、ちゃんと前の彼女さんとお別れしていれば問題はありません。だけど、現在進行形でお付き合いされている場合や中には既に結婚している場合には、修羅場になることもあるんです。だから番という絆で結ばれているからと、手放しで喜べるモノでもないんです。中には今のパートナーを大事にして番に抗う者もいますからね。」
「うわ~痴情のもつれってやつだね。確かに手放しで喜べることでなささそう。」
テオも、ノアベルトも何ともいえない苦い顔になっていた。
「言われてみれば、その話聞いたことあるな。確か殺傷事件まで発展するのも少なくないとか。」
ハインツが言うと、皆真っ青になっていた。
「難しいですよね。番はホントにタイミングが大事だと思います。」
そう言う意味では、自分は運が良かったとエメリーネは言っていた。ダンフィールがディアナと終わって?(利用されたともいうが。)いて、本当によかったとセレスティアも心底安心した。
エメリーネは、祭りの舞姫の役割が終わったら、旅に出るといい、またこのフェリス王国にも訪れると約束した。そして皆がエメリーネとダンフィールを見送った。
道中、エメリーネはダンフィールに片腕抱っこをされていた。自分で歩くと言ったが、ダンフィールがどうしてもとごねて、エメリーネは根負けしたのだ。
「ダンフィールさん」
ダンフィールの顔に向けて振り向き、片腕抱っこをされたままクンクンとダンフィールの匂いを嗅いだ。
「先程も言いましたが、結構匂い残ってますよね?」
「あ、あぁ・・・すまん・・・」
ダンフィールはこの時、自分の惚れっぽさを心底悔いていた。ディアナの時は魅了の指輪の事を差し引いたとしても、それも気付いてのことだったので余計にだ。
「ふふ、その時は私はまだ出会ってない時だからいいですよ♪」
エメリーネはダンフィールの耳元で囁いた。「だから、」
「私が、その匂いを跡形もなく無くなるようにしてあげますね。」
「!!それ・・って?」
ダンフィールは、まさかエメリーネからそのような積極的な言葉が聞けると思ってなかっただけに真っ赤になったが、それは言ったエメリーネも同じだった。
「ふふ、末永くよろしくお願いします。」
「あぁ、ずっと傍にいるよ。」
エメリーネは思い出していた。腕輪奪還は一人で行けとの占いに。今思えば、こういうことだったのだろうと、占いはダンフィールという番と出会うことを示唆していたのだと、今ならば、素直に納得することができた。
そうして二人はシェスティラン共和国のラパル村へと向かっていった。
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