93:交渉~前編~

 ディアナから指定された場所は遺跡のある森であったが、奇しくも以前カイエルが失踪した時に籠っていた、フェリス王国とペルニツァ王国の間の国境にある山の中の森だったのである。



 「来たわね・・・」


 招待状には、いろいろ条件を付けたかったが、あまり付けるとあの男のことだから交渉の場に現れなくなっても困ると思い、『竜の祖』を連れてくるな、という条件だけをつけた。ダンフィールはイシュタルは優しいから条件を飲むであろうとしたからだ。だが、蓋を開けて見れば、



 「ちょっと!『竜の祖』は連れてこないでって!書いたでしょ!」


 ディアナは現れたユージィンを見るや否や、どなった。


 「いや、だから『竜の祖』としては連れてきていないよ?飛竜のイールとしてだね。」


 ユージィンはシレっと言い放った。それに習って『キュル!』とイールも(そうよ!)って言っているようである。


 「何、屁理屈言ってるのよ!そっちの黒い奴は?!」


 「あーカイエルは今は飛竜にしかなれないから、大丈夫かなって。それに道案内を務めていたので。」


 セレスティアも叔父ユージィンに習い、シレっと言い放った。


 『ギュル!ギュルルルルギャウギュルルル!!』(訳:あぁ?こんなところにセレスティアが、俺なしで来て言い訳がないだろうが。馬鹿かお前は?)


 「・・・なんて言ってるのかわからないけど、バカにされてる気がするのは気のせいかしら?」


 ディアナは飛竜の言葉はわからないが、何となく『馬鹿』と言われているような気がしたのが、まさしくその通りであった。


 「まぁ・・・バカにというか、カイエルの気持ちは俺もわかるな。番をこの様な場に、来させるのは反対だろうからな!」


ダンフィールは同じ竜なので、カイエルの言葉はわかっていた。


 「ちょっと!ダンあなたどっちの味方なのよ!」


 「す、すまん。」 


 「何なのよ!あんた達、このメガネがどうなってもいいの?!」


 メガネと呼ばれているライモンドは、今は起きており(その眼鏡っていうの止めてくれないかな・・・)とライモンドはライモンドで思うところがあった。 

   

 「まぁ言い訳をさせていただくとね。この様な場所は飛竜でないと時間的に厳しいし、基本飛竜はパートナー以外を乗せるのは嫌がって乗せてくれないんだよ。だからね、僕としてはパートナーであるイールでないと、ということなんだよ。あと付け食わせるなら、カイエルは最近この森に来ていたからね、道案内としては打って付けだった訳だよ。」


 実はこの話は半分は真実で半分は嘘である。飛竜はパートナー以外の竜騎士は確かに嫌がるが、ユージィンクラスになると、他の飛竜も乗ることは可能だったりするのだ。だが敢えてここではソレは都合よく無かったことにしている。


 「くっ。!!」


 真実を知らないディアナはソレを言われてしまえばどうしようもない。兎にも角にも目的のモノを手に入れるのが彼女の目的だから、小さいことに目をつぶるしかなかった。


 「ま、まぁいいわ!だけどおかしなことをしたらこのメガネの命はないわよ!!」

 

 (だから、それ止めて欲しいんだけど)ライモンドはやっぱり拘っていた。


 「一つ質問をしたいんだけど、いいかい?」


 「・・・まぁいいわ。何よ?」


 「君のバックにいるのは誰なのかな?」


 「!!」


 ディアナは驚愕した。まさかその事がバレていたとは夢にも思わなかったからだ。


 「な、何のことよ?!」


 ディアナはあくまで白を切ろうとした。だが、狼狽えているのでバレバレである。


 「ふふ、なるほどね、やっぱりいるんだね。」


 ユージィンはあまりのわかり易さに笑いがでてしまった。


 「いないっていってるでしょ!!」

 

 ディアナの顔は真っ赤になっていた。


 「おい、その辺にしとけよ。俺の番を弄ぶのは見てて気分が悪い。」


 ダンフィールは、ディアナの前にスッと出て。ユージィンに怒りを露わにしていた。


 「君は・・・本当に気付いていないのか?」


 「何のことだ?」


 「本当に?」 

 

 「・・・・・」



 ダンフィールは、ユージィンの問いに何も答えなかった。


 「やっぱり・・か。」


 「うるせぇ、それ以上言ったら殺すぞ。」


 だが、それを言った瞬間、


 「聞き捨てならないわね、ダン。」


 人化したイシュタルが立っていた。


 「私の番を殺す?その言葉は、禁忌であることぐらい、わかっているわよね?」


 イシュタルはユージィンに対しての暴言は許さない。竜化はしていないが、彼女の纏うオーラが臨戦態勢であることは、周りにいる者にはビリビリと伝わっていた。


 「姉貴、やるか?」


 ダンフィールは口角を上げ、同じく人化のまま臨戦態勢をとった。

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