68:カルベルス王国の滅亡~⑩~(過去編)
「い・・・いやです。そんなこと、カイエルに言えません!」
「なんだと、このままでは我が国は経済制裁を受けてしまうのだぞ!お前は民が困窮しても構わないというのか?!」
この人は一体何を言っているのだろうと、エレノアは思った。元はと言えば、約束を反故したこちらに非があるというのに、姉のユリアンヌの我儘とそれを許したのは国王である、父ではないかと。
「そんなことは申してません!それならば、我が国は誠心誠意のお詫びをしなければならないのではないですか?こちらが約束を反故をしたことなのに、武力を、カイエルをもって制圧しようなどど、道理に外れております!」
「なんだと、父であり国王である、わしの言う事が聞けぬと申すのか?!」
「私は、初めから申しておりました!挿げ替えるなど、ペルニツァ王国に失礼に当たるのではなかいかと!ご自分の采配ミスの尻拭いをカイエルに押し付けないで!!」
エレノアも感情的になってしまい、思っていたことをぶちまけてしまった。エレノアも言い過ぎた、と気付いた時には、ロレンシオ王の顔は怒りで真っ赤に染まっていた。
「この…言わせておけば!お前には自分がどういう立場なのか思い知らさねばなるまいなぁ!!」
エレノアはロレンシオ王の怒っているのに、笑いながら発する言葉におぞましいものを感じ思わず後ずさりをしてしまった。
「おい!」
ロレンシオ王は傍にいた、近衛騎士に耳打ちした。
「は、はい。」
「・・・・・・早急にな!」
「御意!」
近衛騎士数人がこの場を急いで離れていった。エレノアその様子を見て、嫌な予感しかしなかった。
そして、直ぐに見覚えのある人物が近衛騎士に連れてこられた。
「神父様!!」
近衛騎士に腕を後ろで拘束され、連れて来られたのは、エレノアが通い詰めていた教会の神父であった。神父は猿轡をかませられ、話すことはできなかった。
「神父さま、ごめんなさい!そんな、そんなつもりはなかったの!」
エレノアは泣きながら顔を伏せて謝っていた。神父はそんなエレノアの様子に、エレノアが悪くないことは、はっきりとわかっていた。
「神父さまを、一体どうするおつもりですか?」
エレノアは父、ロレンシオ王に顔向け睨みつけていた。
「まずは、この神父とやらの腕の一本でも切り落とせば、お前は自分が誰に生意気な事を言ったか、よくわかるだろう?ふふ、可哀想になぁ、お前と関わったばっかりに、痛めつけれられる羽目になるなとはな。お前にはどうやら言葉よりも見せつける方が話は早いようだから、わしに逆らったらどうなるか、その眼を開いてよく見てるがいい!」
「い、いや、止めてください!」
エレノアの言葉は悲鳴に近いものだった。
「ならば、わしに生意気な口を行ったことを謝罪しろ!そして約束するのだ!カイエル殿に『竜の祖』にペルニツァ王国を制圧させると!!でなければ、この神父の腕だけではすまぬぞ!!」
神父は拘束されていたが、カイエルが『竜の祖』と聞き、今の会話の流れで自分の立場がどういったものか悟った。エレノアはロレンシオ王に向けひれ伏した。
「しゃ、謝罪はいたします。お父様、いえ陛下。口が過ぎたことは本当に、本当に申し訳ございませんでした。」
「次は?」
「カイエルは・・・カイエルを・・・」
エレノアは言い淀んでいた。自分がカイエルにお願いをすれば、カイエルは罪のないペルニツァ王国の人達を、殺戮することになりかねない。もしかしたら、逆もしかりでカイエルがペルニツァ王国から傷つけられるかもしれない。いろいろな不安がエレノアの心の中を駆け巡っていた。
「どうした?」
「言えません!カイエルに、ペルニツァ王国を制圧しろなどと、お願いです。他の方法を、何か他の手段を考えて、「もういい!!!」」
ロレンシオ王はエレノアの言葉を遮った。
「やれ!!」
「!!」
「!!!!!」
カイエルは、エレノアの命の灯が急激に小さくなったことがわかった。先ほど、父親に呼ばれたと、部屋を出て行ったが、そこで何かがあったのかもしれない。カイエルはエレノアの気配を辿り城の中を急いでいた。(そんな馬鹿な!ついさっきまで、病気も何もなかったはずだ!もしかしていきなり呪いにでもかけられたのか?それとも怪我?命に関わるような怪我をしたのか?!)
「エレノアここか?!」
カイエルは、ロレンシオ王の執務室の部屋に到着し、乱暴にドアを開けた。
そこには、信じがたい光景が広がっていた。
エレノアは血まみれになって倒れていたのだ。
「エレノアーーーーーーー!!!」
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