60:カルベルス王国の滅亡~②~(過去編)

 教会へ行く途中の道中の事だった。その日もかごにいっぱいのお菓子をいれて、エレノアは機嫌よく教会に向かっていた。(今日は沢山お菓子を用意できた!子供たち喜んでくれるかな?)なんてことを思っていたら、声がかかった。


「おい、そこの女!」


誰かが、どこからか何かを言っているが、自分のことではないだろうと、エレノアは素通りした。


「てめぇ!何無視してんだよ!」


エレノアは、言われてみれば周りに人はいなかったので、やっと自分のことだということに気が付いた。


「あ・・・えーと、私に声をかけてくださってたんですね、すみません。気が付きませんでした。」

 

 エレノアはそう言うと、声のした方に振り返ったのだが、その男を見て驚いた。美しく逞しい男だったからだ。(こんなにステキな男の人が一体私に何の用かしら?)エレノアはその男を見目は好ましいとは思ったが、ただそれだけだった。エレノアの兄も姉も美しい人ではあったが、性格的には決していいとはいえない残念な部類であった為、美しい人=いい人ではないことをエレノアはよくわかっていたからだ。その為、見た目は見た目だけの感想であり、それが中身に直結している訳ではないことを理解していたエレノアは、見た目で心を動かされるようなことはなかった。


 「・・・・・」


 だが、一方の声をかけた男はなぜか固まっていた。


 「?」


エレノアはその男の前で掌をひらひらしてみた。


 「えーと、大丈夫ですか?」


 「!」


 目の前で、掌をひらひらされていたことに気が付いた男は慌て飛び退った。


 「ば、ち、近いだろ!」


 「あ、すみません。何だか反応がなかったもので・・・」


 その男は顔が真っ赤になっていた。エレノアは、目の前の美丈夫が何だか可愛いと思ってしまい、笑いが込み上げてきた。


 「な、なにが可笑しいんだよ!」


 「いえ。だって貴方の方が私よりも随分と身体が大きいのに、まるで私を怖がってるみたいでなんだか可笑しくなっちゃって。」


 「そ、そりゃ番にそんな近くにこられたら、照れるというか、抑えがきかないというか・・・」


 「え?」


 その男はごにょごにょと小さい声で何かを言っていたが、エレノアには聞き取れなかった。


 「で、何か御用ですか?」


 「!そっ、そうだった!」 

  

男はハッとして、気が付いた。


 「お前、名前は何て言うんだ?」


 「え・・・いきなり知らない人に名前を聞かれても・・・」


 さすがにイケメンと言えど、名乗りもしない男に自分の名前を言いたくはなかった。


 「お、俺はカイエルって言うんだ!これで知らない人じゃないだろ!早く教えろ!」


 随分と偉そうだし、別にエレノアはカイエルの素性を特に知りたい訳ではなかったのだが、名乗られてしまったのなら、仕方なく応えることにした。


 「私は、エレノアと申します。」


 「!エレノア?!エレノアって言うのか?」


 「え、えぇそうですけど・・・?」


 「エレノア、俺の番はエレノア・・・」


 カイエルはまた小さな声で何かブツブツ言っていたようだったが、エレノアには聞き取れなかった。


 「あの、私急いでるので、失礼しますね。」


 「!」


 実際、夜までには城に戻っていないと、不味いことになる。エレノアには無駄な時間を過ごしたくはなかった。だが、カイエルは、


 「ちょ、ちょっと待て!」


 「なんですか?私本当に急いでるんです。」


 カイエルは一瞬考え、


 「それ重いだろ?持ってやるよ。」


 そういうと、いきなりエレノアの持っていたかごを奪った。


 「ちょっと、返してください!」


 まさか、かごを奪われるなど思ってもいなかった、エレノアは驚いた。


 「いやだ。持ってやるっていっただろ。」


 「え、でも・・・・」


 エレノアは、カイエルが何故そんなことをするのか訳が分からなかった。


 「心配しなくても、持ってどっかに行きやしねぇよ。とにかく持ってやるから、どこに行くんだよ?着いて行ってやるよ。」


 だが、カイエルはそんなことを意に介さず、本当にただの荷物持ちでエレノアの目的地である教会にまで付いていったのだ。


 急に現れたその男カイエルは、その日からエレノアに付きまとうようになった。

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