50:白金のアンティエル~後編~

 「おかえりーーー!」


ユージィン邸から出迎えてくれたのは、ラーファイルであった。


 「あーー!やっぱり姉さん来てたんだね!久しぶりー」


 ラーファイルはアンティエルを見るなり嬉しそうにしていた。あの後、ラーファイルは放っておく訳にもいかず、ハインツが独立するまではユージィン低で一緒に暮らしていたのだ。


 「なんじゃ?お主今度はえらい女子寄りじゃのぉ。フム番は男か・・・」


 「そういうこと♪とってもステキな人なんだよ。あ、そうか。ハインツは今実家に帰ってるから、会えなかったんだね。」


 「まぁ、健勝でなによりじゃ。」


 「はいはい、後ろが閊えてるから、早く入って。」

 

 そう言うのは、人化したイシュタルである。


 「俺、じゃなくって僕今日一生懸命お料理作ったんだよ!今日はお客さんが多いだろうと思ってさ!」


「凄いわね!それは楽しみだわ。」


「ジェシーさんからいろいろ教わったからね!あー早くハインツと一緒に暮らしたいなぁ。」


 ラーファイルは日中ユージィン邸に通いでメイドをしているジェシーから、いろいろと家事を教わっているのだ。


 「で、どうだったのさ?」


 「私も聞きたいわ。ずっと厩舎でヤキモキしていたのよ。」


 「すまないね、本当ならイシュタルも来てほしかったけど、流石にあの場所では混乱を余計に招いてしまうからね。」


 「ふふ、わかってるわ。」


 「まぁ話は食事の後でね。まずはラーファイルが作ってくれた料理を堪能しようか。」


 そういって、ユージィン、イシュタル、アンティエルは屋敷の奧に入り、ラーファイルお手製の食事をいただくことにした。










 「で、一体どういうことなんだろう?」


 「殿下、『番』という言葉の意味はご存知ですか?」


 「なんとなくは。詳しくは知らないが、一部の獣人がそれを信仰をしていると聞いている。」


 「そうです。それと同じことが、『竜』にもあるのですよ。」


 「竜?一体なんのことだ?」


 「彼女・・・アンティエルは、竜なんですよ。今は人化していますけどね。」


 「ば、ばかな!竜とは神獣ではないか。この小さな少女が・・!」


 フェルディナント王子は先ほどのカイエルの言葉を思い出した。『・・・めちゃめちゃデカいだろ!器に騙されてんじゃねぇよ!』確かにそう言っていた。 伝え聞くところの竜は飛竜よりも大きいと聞いている。


 「ば・・ばかな、そんなことが・・・」


 「だけど、彼女の目を見ればわかるでしょう?」


 フェルディナント王子は咄嗟に、アンティエルの顔を見た。


 「瞳孔が・・・縦長?」


 「そうです。彼女たちが人化すると、瞳孔だけは元の竜のままなんです。」

 

 フェルディナント王子はもしやと思い、カイエルを見やった。思ったとおりカイエルも瞳孔は縦長だった。


 「では、彼も・・・」


 「そういうことです。そしてカイエルはセレスティアの番です。」


 「なっ!・・・・いやそうか、だからか。」


 言われてみて、カイエルの行動に合点がいったのだ。


 「まぁそれは置いといて。殿下、私も先程知りましたが、貴方も竜の番でした。」


 「僕が・・・」


 フェルディナント王子は信じられないといった表情だった。

 

 「はい。彼女はアンティエル。白金の竜、聖なる力を司さどる『竜の祖』です。」


 「!!馬鹿な、それは伝承にある、古の竜ではないか?!」


 「どんな伝承かはよく知らぬが白金の竜は妾のことじゃな。」


 竜だけでも驚いたのに、まさかの伝説の『竜の祖』とは思わなかったフェルディナント王子は驚きの連続であった。


 「ん?でも確か・・・『竜の祖』は番の理想のタイプに人化するのよね?なのに、アンティエルさんは、幼女って・・あ!」

 

 セレスティアは慌てて口に手を当てたが、ずっと気になっていたのだ。アンティエルが幼女だったからだ。ということは、殿下はもしや?とずっと気になっていたことが、うっかり口に出てしまった。


 「ちょっちょっと待ってくれ!」


 フェルディナント王子はあらぬ疑いをかけられ焦った。身に覚えがあるまだしも、身に覚えが全くないからだ。彼の好みは年相応の女性なのだから。


 「ふむ、確かにそれは誤解じゃな。妾は妾の好みでこの格好なだけじゃ。」


 「え?そうなんですか?」


 「うむ。だが、この姿が気に入らないのであれば、変化するのもやぶさかではないぞ?妾としても、番の期待を裏切るのは本望ではないからのぉ。」


 そう言うと、アンティエルは椅子から立ち上がり、何かを呟くと、彼女自身がまばゆい光を放った。それはほんの数秒のことだったが・・・ 


 「どうじゃ?このくらいがいいのじゃろ?」


 そこには、先程の幼女姿から大きな姿になったアンティエルが立っていた。神秘的な雰囲気はそのままのクールな美貌の大人の女であった。


 「!!」


 王子はアンティエルを見たとたん、真っ赤になって凝視してしまい固まっていた。


 「ふ~ん。なるほど、ちょっとセレスティアに似ているね。」


ユージィンはアンティエルを見て、納得したようであった。


 「え?私?」


 「なるほど、そういうことであれば、浮気は大目に見なければなるまいな。妾がなかなか現れなかったせいで、妾に似た女に懸想したというならば納得ぞ。寛容な妾に感謝するがよいぞ。」


 「え?え?ちょっ・・え?」 


 フェルディナント王子はかなり動揺していた。アンティエルが幼女から大人に変わったのも驚きであったが、やはり、その姿は彼の理想にドンピシャだったのだ。それがもろに態度に出ていたのだが、その様子を見て笑いが込み上げてくるのを、セレスティアは必死で堪えていた。 


 「だが、他所の番はいかんぞ。竜の逆鱗の触れるからな。妾とて、不毛な争いは好むところではないのじゃ。」


 「そうだ!俺の番にちょっかいかけてんじゃねぇぞ!!」


 カイエルはフェルディナント王子に睨みつけていた。

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