37:竜の就任式~⑤~
セレスティアは不味いと思った。
初めて、カイエルが人化してセレスティアの前に現れた時も、ヤキモチ全開で悪態を付いていたので、寄りにもよってフェルディナント王子がいるこの場で同じことをやられたら不味いと思ったのだ。とにかくこの場からどうにかしないと、と声をかけようとしたら、
「カイェ「歓談中大変失礼いたします。セレスティア様、ローエングリン団長が火急の用にて、至急本部に戻るようにと仰せつかりました。せっかくの祝賀会の最中恐縮ではございますが、私と一緒にいらしてください。」
(・・・・・え?え?何これ?この言葉使い方、カイエルどうしたの?)セレスティアは大変驚いた。なんと、カイエルはいきなり現れたと思ったら、前回の粗暴な口調ではなく、敬語を話したのだ。そして服装もよくみれば、自分達と同じ竜騎士の制服を着ていた。ただし正装用ではない。
「わ、わかったわ。団長がお呼びなのね。直ぐに戻るわ。」
フェルディナント王子は呼びに来たというカイエルのことを注視していた。
「・・・そうか、残念だけど業務とあらば仕方ないね。」
「も、申し訳ございません。」
セレスティアは勿論この場から抜け出せることをラッキーと思っていた。
「でも、さっき言ったこと本気だから、考えておいてね。」
だが、しっかりと、釘は刺されてしまった。
「・・・・・・」
「じゃ、僕は中に戻るね。」
そう言って、フェルディナント王子は会場に戻っていった。それを見届けてから、
「さ、セレスティア様、あちらから参りましょうか。」
そう言うと、カイエルは会場には入らずに、テラスから外に出ようとセレスティアを引っ張っていった。
「あー詰襟めんどくせぇ」
そういうなり、制服の閉じていた詰襟を解放し、首元を露わにしていた。
「ところで、どうしてカイエルが来たの?」
今は会場から離れたところに二人で歩いていた。実際本部は徒歩でいける圏内だ。
「あぁ?不穏な空気を感じたからな、だから人化して様子を見に行ったんだよ。」
「そうなの・・・だけどさっきの言葉使いと制服は?」
初めて人化を見た時も言われてみれば、ダンスを踊ってだけでヤキモチから来たんだったなと思い出した。どうも男関連は見過ごせないようだった。
「あーあれは、俺のねーちゃん?っとか言ってるイシュタルとかいう女に無理やり教えられたんだよ。で、制服だったら怪しまれないからコレ着て行けって渡された。」
カイエルの話はこうだった。
カイエルは王宮の竜厩舎で人化した。セレスティアのことで嫌な感じがしたからだ。今にも飛び出そうとしていたところで、イールから待ったがかかったのだ。
『いい?あんたが何かやらかしたら、セレスティアがとんでもない罰を与えられることになるのよ!』
「な、なんでそんなことになるんだよ!」
カイエルは訳が分からなかった。自分はただ番を護ろうとしているだけだったからだ。
『そんなこともわからないの?!事はカイエル、貴方が考えてるほど単純な話ではないのよ。あんたが突撃して何かやらかしたら、セレスティアの竜騎士としての立場も危うくなるのよ?そうしたら、お給与ちゃんと貰えなくなるのよ!それでもいいの?』
カイエルは給与が貰えなくなるという言葉に反応した。セレスティアが給与をたくさんもらって二人で住むという将来の話は、カイエルとって大事な約束ごとになっているからだった。
「・・・そっか、給与もらえなくなると不味いよな。」
お給与がもらえなくなってしまっては、一緒に住むという目標が達成できなくなるということは理解できたようだった。
『そうよ!それにセレスティアが困るのはあんたも良しとしないでしょう?』
「あ、当たり前だろ!」
『だったら、今から行く場所には絶対にいつもの口調で話してはダメよ!いい速攻でレクチャーするから叩き込みなさい!』
イールはそう言うなり人化してイシュタルとなり、とにかく人に会ったらこう言えと、付け焼刃で教えられ、そして祝賀会の会場に現れたという事だ。
「・・・・そうだったのね。」
カイエルは、ルーカスの悪意に気付いたのだろうなとセレスティアは思った。幼い頃にイールにもソレで助けられてことがあったからからだ。
「さっきのあいつに、なんか変なことはされていないよな?」
カイエルは心配そうにセレスティアの顔を覗き込んだ。
「やだ、あんなところで何もないわよ。」
セレスティアは可笑しくなって笑ったが、よく考えたら違うことに気付いた。
「あ、でも何もないことはなかったわね。」
先ほどのフェルディナント王子の言った婚約者の件を思い出したのだ。
「!や、やっぱりさっきにあの男になんかされたのか?!あの野郎八つ裂きに!!!」
カイエルは一瞬で頭に血が上り過激な発言をしていたが、セレスティアに窘められていた。
「ちょ、そんなことだめよ!それに話を聞いただけで、何もされていないんだから、少し冷静になりなさい!」
セレスティアにピシャリと言われ、一瞬で大人しくなった。
「だ、だってセレスティアは俺の番なんだろ?なのにその番に手を出すなんて・・」
と後半ごにょごにょと言っていたが
「まぁとにかく番は置いといて、」
「お、置くのかよ!」
カイエルは結構ショックだった。だがセレスティアはそれを無視して話を続けた。
「さっきの件は確かに叔父様には相談に乗ってもらいたいかも・・・。」
「え?さっきのはイシュタルがそう言えって言っただけで、ホントに呼んでる訳じゃないぞ?」
「今日じゃないわよ。だけど、近いうちに相談には乗ってもらうつもりよ。それと、」
そう言うと、セレスティアはカイエル真正面に立った。カイエルは何事かと思うも立ち止まり、セレスティアは、背の高いカイエルの顔に向けてニッコリと微笑んだのだ。
「来てくれてありがとうね、カイエル。」
セレスティアは、悪態は付くものの、なんだかんだと自分の事を一番に考えてくれるカイエルのことは素直に嬉しかったのだ。ただまだ番については、セレスティアの中ではまだ受け入れることはできていないけれども。
「あ、あぁ。」
カイエルはセレスティアの微笑みに真っ赤になっていたが、その顔を見られたくなくて、慌てて顔をそむけた。
セレスティアは、こうやってカイエルと並んで歩くなど思えば初めてだなと思っていた。先ほど、カイエルが制服で会場に現れた時は、実はセレスティアはカイエルの姿にドキリとしたのだが、本人には内緒にしておこうと、カイエルの横顔を見ながらそう思った。
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