24:その男は

 セレスティアがフェルディナント王子とのダンスが終わると、ノアベルトとルッツがセレスティアの元に訪れた。


 「セレスティア、なんか王子と話していたみたいだけど、大丈夫だった?」


ルッツは心配そうに、セレスティアに尋ねた。


 「心配してくれたのね、ありがとう。大丈夫よ。お話ししただけだから。」


 「びっくりしたよ、まさか王子とダンスするとはね。」


 ノアベルトも珍しく驚いていた。


 「女の竜騎士が珍しかっただけよ。他意はないと思うわ。」


 「そうだったらいいんだけど・・・」


 ルッツは何となく、フェルディナント王子とセレスティアの様子にタダならぬものを感じていた。そしてそれはあながち間違いではなかったのだが。


 「まぁ、今考えても仕方っないしょ。あ、そうだセレスティア良かったら俺とも

踊ってくれよ。せっかくそんなに粧し込んでるんだからさ、どう?」


 「!?」


まさか、ノアベルトがそんなことを言うとは思わなかったので、ルッツは驚いた。


 「えぇ、それはいいけれど、先約があるのよ。順番ね。」


 そういうと、セレスティアはルッツの方を見た。 


 「セレスティア!」


 ルッツはセレスティアがちゃんと約束を覚えてくれていたことに、すごく喜んでいた。


 「わっかりやすいなーお前・・・」

 

 ノアベルトは呆れた顔で、ルッツに言い放った。


 「う、うるさい!」


 「??」

 

 セレスティアはやはり何のことかわからなかった。


 「と、とにかく俺が先だから!セレスティア、王子の事もびっくりしたけど、今日のドレス姿は本当に綺麗で、・・・」


 「「やぁ」」


 と、言いかけたところで、、ハインツやテオ、ケヴィンもセレスティア達を見かけて声をかけてきた。やはり皆、セレスティアが王子と踊ったことに、驚きを隠せなかったようで、理由を知りたかったようだ。そしてセレスティアがルッツやノアベルトと踊ることを知ると、自分達も!となり(ケヴィンは一番遠慮がちにお願いしてきた。)結局竜騎士の同期全員とセレスティアはダンスを踊ることになった。






 「すまないな、あの・・・俺まで。」


 最後にダンスを踊ったケヴィンは遠慮がちに言ってきたが、


 「ううん、仲間なんですもの、気にしないで!」


 そうセレスティアが言うと、ケヴィンははにかんで少し頬を赤らめていた。

 竜騎士同期全員とダンスを踊ったセレスティアは兄の元に戻ろうかと思ったが、兄は騎士学校の教員と話し込んでいた。(そっか兄さまも先生が一緒だものね。)ディーンはセレスティアと同じ学校だったので、久しぶり会う恩師と話が弾んでいるようだった。


 「ふ~さすがにちょっと疲れちゃったわ。ちょっと涼みに一人になりたいから、私外に出てくるわね。」


 「わかった、一人で大丈夫?」


 ハインツが心配そうに聞くと、


 「ふふ、私もこう見えて竜騎士よ。多少は柔じゃないつもりよ?」


 セレスティアは、仲間に一言そう言ってから、会場横の庭園に出た。庭園はところどころに街灯があるだけだが、それが返って昼間とは雰囲気の違う庭園が映し出されていた。大きな噴水があり、周りには手入れされた木々や花々が生い茂っていた。


 「ん~~」


 セレスティアは、誰もいないことをいいことに、ドレス姿のままで伸びをしていた。(兄さまやエミリーに見られたら怒られるわね。)そんなことを思っていたら、不意に声をかけられた。


「おい。」


「え?」


 セレスティアは声をかけられたのだと気付き、声のした方へ振り向いた。そこには一人の全身黒ずくめの男が庭園の噴水の淵に立膝座りをしていた。実はセレスティアが驚いたのは声をかけられたことよりも、気配に気付かなかったことであった。気配を感じさせなかったこの男に、瞬時に只者ではないと判断した。


 その人物は一目で目を引く男だった。

 長くも短くもない黒い髪、闇夜の中でも目立つ金色の目。セレスティアは割と顔の整った男性には免疫があったのだが、目の前の男はそれでも、目を見張るくらい容姿が整っていた。そして座っていても、体つきは筋肉質なのがわかった。だが、開口一番イメージが崩れることになる。


  「てめぇ・・・」


 「え?」


 その男は真っ直ぐにセレスティアを見据え言葉をかけたが、セレスティアは初対面の男に「てめぇ」等と、話しかけられるとは思ってもみなかったので、自分以外かも、と思いキョロキョロと周りを見渡したが、誰もいなかった。ということは、


 「まさかと思うけど、私の事かしら?」


 「そうだよ、お前に言ってるんだよ!」


 「・・・・」


 まさかそんな物言いで男性から話しかけられた事は一度もなかったので、セレスティアは内心かなり驚いていた。が、やはり顔は無表情のままであった。だが、男は構わず話し続けた。


 「いろんな男にべたべた触られやがって!!」


 「べたべた??」


 もしやダンスのことを言ってるのは?とセレスティアは思い至った。というのも、そもそもそれ以外に異性に触れられた機会がなかったからである。


 「もしかしてダンスのことを仰ってます?」


 「ダンスだが何だか知らねぇが、とにかく他の男に触るんじゃねぇ!」


 「・・・というか、何故私がそんなことを見ず知らずの貴方に、言われなきゃいけないのでしょうか?」


 初対面でいきまり喧嘩腰に話してきた男に、いくら顔がいいと言ってもさすがにセレスティアも腹が立ってきた。


 「・・・っんだよ、前に言ったじゃねぇか・・・」


 「前に言った?私と貴方とは今しがた出会ったばかりの初対面だと思うのですが?!」


 「何言ってやがる!毎日顔合わせてるだろ!!」


 男のセリフに全く身に覚えのないセレスティアは意味不明だった。もしやと思い。


 「あの、失礼ですけど、誰かと間違っておられませんか?」


 「あぁ!間違える訳ねぇだろ!いつも一緒にいてるんだから!」


 人違いではない?セレスティアはますます意味がわからなかった。


 「お前言ったじゃねぇか・・・」


 「だから何を・・・」


 「俺と・・・俺と一緒に住む為に仕事してお金貯めて、家買って二人で一緒に住もうって言ってたじゃねぇか!アレは嘘だったのか?!」


 「?!」


 セレスティアは男のこのセリフでわかった。

 何故なら、このセリフは自分が飛竜に乗って飛んでいる時に、飛竜に向かって言った言葉だ。だから周りが聞いていた、なんてこともあるはずもない。そして黒髪に金色の目、ということは・・・


 「貴方・・・カイエルなのね?」


 セレスティアは、目の前のこの男が自分のパートナーのカイエルだと、この時はっきりと悟ったのだ。

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