8:仕掛けられた悪意~後編~(セレスティア9歳)

 コンコン

 

 「お父様、大事な話があります。」


 「ん?すまない。今はジョアンナと大事な話をしているんだ。後にしてもらえないか?」


 「!」


 セレスティアは今まさに縁談の話をされているとピンときた。セレスティアとユージィンは顔を見合わせ、同時に頷いた。二人の考えは合致していたようで、後とは言われたものの、今話した方がいいと判断したのだ。


 「お父様、そのことでお話しがあるんです!」


 言うと同時に部屋にセレスティアとユージィンは無理やり入った。


 「な、なによ、マナーがなっていないわよ。」


 ジョアンナはユージィンを見て、明かに『不味い』という顔をしていた。セスも怪訝な顔はしたが、何か思うところがあるのだろうと、咎めることはしなかった。


 「その事って言うのは…縁談のことかい?」


 「そうです!お父様、私は前に話した通り騎士になりたいんです!いえ、正確には竜騎士になりたいんです!だから今縁談を受けるわけにはいきません!だからお断りをしてほしいのです。どうか、お願いします!」


 セレスティアは深々とお辞儀をした。


「今のお前ならもう理解していると思うが、竜騎士は今現在まで女性では成り手はいないんだよ?それでも目指すというのかい?」


「はい!」


「な、何をいつまで夢みたいなこと言ってるの?!女は嫁いで価値あるものなのよ!竜騎士なんて夢物語をいつまでも!」


「あーそのことなんですけどね。」


そこへユージィンが割って入った。


「な、何よ!関係もないのに話に入ってくるなんて!」


 ジョアンナもユージィンが苦手だった。理由はソフィアと同じで、自分がセレスティアにやっていることが、ユージィンにはバレているのでは?と気が気ではなかったからだ。


「関係なくもないから、わざわざ出しゃばってるんですよ。」


「ユージィン珍しいな。どういうことだ?」


「兄上、現段階ではセレスは幼いし、まだ騎士としての鍛錬も正式に受けていませんので、それらをキチンと踏まえた上でのお話しですが・・・」


「あぁ。」


「セレスティアには将来的に『竜の御目通り』の試験を受けさせようと見当しています。」


「「「!!!」」」


「な、なんですって?!」


「お、叔父様本当に?」


セレスティアは信じられない、といった顔をして目には嬉しさのあまり涙が溜まっていた。


「それは何故だい?」


「ご存知の通り、あの気難しいイールがセレスには懐いているからですよ。それに時代も変わってきていますし、僕は女性でも試験は受けてもいいと思っています。ただし受けるだけの何かを持っていないと話は別ですがね。」


 「・・・その何かをセレスは持っていると?」


 「論より証拠、先にも言いましたがイールが懐いている。これだけで説得力に値しますからね。」


 「・・・なるほどな。」


 「お、お父様!私竜騎士になりたいんです!だからお願い!縁談はお断りしてください!」


 セレスティアは必死で父に懇願をした。


「・・・ジョアンナ、話が随分と違うな。」


「!!」


 ジョアンナはしまったと思っていた。さすがにこんなことになっては誤魔化しは利かない。セスにはセレスティアもお見合いに乗り気だというようなことでも吹き込んでいたのだろう。まさかここまで抵抗されるとはジョアンナは想定外だったのだ。基本今までどんな用事を言いつけてもセレスティアは受け入れていたから、今回は特にきつめに話してあったので逆らうことはないと、高を括っていたのだ。


 「そ、それは・・・わ、私は私なりにセレスティアの幸せを願って!女性で騎士なんて!」


 その言葉にセスは怒気を込め、


 「騎士なんて?」


 さすが親子というべきか、ジョアンナも女騎士に対して蔑視を含むような物言いになってしまい、セスに気付かれてしまっていた。


 「あ、ち、違うのです!やはり騎士という仕事は大変ですし、その、そ、そう危険なこともありますから、私はこの子にそんな目にあってほしくなくて!」


 ジョアンナは取り繕って必死で言い訳を並べていた。


 「・・・まぁその事は後でいい。セレス。」


 「はい、お父様。」


 「昔からお前は言っていたな。騎士に竜騎士になりたいと。」


 「はい!お父様!私は、セレスティアは騎士に、竜騎士になりたいのです!こればかりは曲げられません!」


 セレスティアは父セスの目をしかりと見据え、自分の信念を伝えたいと思った。


 「わかった。それならお前は自分の夢に向かって頑張ってほしい。10歳になれば騎士学校へも入学、ディーンと同じように騎士寮に入るといいだろう。」


 「お、お父様ありがとうございます。」


 父セスからも正式にお墨付きを貰えた!セレスティアは遠慮なく堂々と騎士への鍛錬をすることができるようになったと安堵した。


 「セレス、『竜の御目通り』については現時点は僕の独断だ。もちろん上には話をするつもりだけど・・・君が本気で竜騎士になるつもりなら、騎士学校に入ったらそれを示すだけの成績を残さないと、僕として説得力に欠けてしまうからね。厳しい事を言うけれど、必ず上位の結果を出してほしい。」


 セレスティアはユージィンの言わんとしてることがわかった。セレスティアが『竜の御目通り』の試練を受けるには、上が納得する成績を出せと言ってるのだと。


 「わかったわ、叔父様!私誰よりも頑張って竜騎士に恥じない成績を取ってみせる!!」


 「ふふ、その意気だ。」


 「さて、私はこれからジョアンナと話をするからな。セレスとユージィンは悪いが席を外してくれるか?」


 「!」


 ジョアンナは見るからに、真っ青な顔をしていた。


 「はい、お父様それでは失礼します。」


 「あぁ、兄上お邪魔したね、それじゃまたね。」


 「あぁ。」



 それから、ジョアンナがセスからかなりきつい叱責を受けたのは言うまでもなかった。

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