6:紅玉の飛竜イール(セレスティア9歳)

 ユージィンが乗ってきた飛竜は、セレスティアがお気に入りの場所、敷地内の丘の上で待っていた。


 「イール!」


セレスティアが赤い飛竜の名を呼ぶと、飛竜が喉を鳴らした。


 『キュルル』


 「イール久しぶりだね!元気そうで良かった!」


 セレスティアはイールの足に抱き着いた。飛竜は馬の大きさの3倍ほど、高さにして3m以上の体長である。だが、イールはメスの飛竜のせいか他の飛竜よりは若干小柄ではあった。そしてイールはかなり光沢のある綺麗目の赤い鱗に覆われた美しい飛竜であることから『紅玉の飛竜』と呼ばれていた。


 「はは、イールも喜んでるよ。」


 「うん、叔父様私にもわかるよ!」


 飛竜は基本タッグを組んだ人間以外とは馴れ合いをしないのだが、なぜかイールはセレスティアには、一目見た時から懐いていた。


 「うん、相変わらず赤い鱗がとても綺麗ね。こういう色はなかなかないんじゃないかしら?」


 『キュル!』


 「『よくわかってるじゃない!』だってさ。」


 「フフ、イールったら自信家さんね。」


 イールを見ると、どーだと言わんばかりのどや顔をしているのはセレスティアにも見てとれた。  


 「相変わらず叔父様は、イールの言葉がわかるのね、私も何となくはわかるけど、詳細にはまだまだわからないわ。残念。」


 「いや、その年で何となくでも、わかるのなら凄いと思うよ。」


 「ホント?」


 セレスティアは嬉しくなり一瞬パアと顔が明るくなったが、ハッとしてすぐに落ち込んでしまった。


 「う~竜騎士なりたいなぁ。ダメ元でいいから受けさせてくれないかなぁ、『竜の御目通り』」


 「そうだね、なかなか今までなかったことを覆すのは難しいけれど、セレスなら、変えられるかもしれないな。」


 「ホント?!叔父様!」


 ユージィンはいつもは柔らかな表情をしているのが常ではあるのだが、この時は妙に真剣な顔で、セレスティアを見据えて言葉を放った。


 「これは竜騎士だけにとは限らないけど、チャンスはどこに転がっているかわからないからね、最後まで諦めない事だ。」


 「・・・・ありがとう、叔父様。私今まで竜騎士に女性がいなかったから諦めかけていたけれど・・・そうよね。諦めちゃったらそこで終わっちゃうもの。私最後まで諦めないわ。足掻いて見せる!」


 セレスティアは笑顔でユージィンに誓った。


 「あぁ、それでこそローエングリン家の子供だ。」


 「叔父様、ありがとうね。」


 「いや、別に僕は大したことは言ってないよ、だけどあっちは結局そのままにするのかい?」


 「お義母様とソフィアね。うん、とりあえずはいいかなって。」


 「ま、僕としては正直なところは不本意だけど、セレスが待ったをかけるなら、まだ黙っておくよ。」


 「ごめんね、叔父様。」


 『キュルルル!!!』


 「あ、イールも怒ってくれてるのね?ごめんね、せっかくイールが気付いて叔父様にわざわざ教えてくれたのに。」


 そう、飛竜のイールは悪意に敏感だったため、義母のジョアンナや義妹のソフィアがセレスティアに悪意を放っていることに気付いたのだ。それをパートナーであるユージィンに伝えたため、ユージィンはセレスティアが不当な扱いを受けていることに気付いたのだ。

 普段は当然身内には見られないように、セレスティアに対して意地悪をしているが、もちろん人目がある(使用人以外)ところでは繕ってはいたけれど、心の内は隠せるはずもなく放たれる敵意は、イールにはバレバレだったのだ。


 「あ、そういえばイール、私のことで何かあるんだよね?悪化って何のことかわかる?」


 セレスティアがイールに話しかけると、イールはチラッとユージィンの方に目線を向け、


 『キュルキュル、キュルルル』


 「・・・ふむ、なるほどな。さっきも言ったけど詳しくはわからない。だけどあの義母と義妹は何か仕掛けてくるから気を付けろだって。」


 イールは悪意に敏感だ。義母ジョアンナと義妹のソフィアの悪意に作為的なものがあると感じ取ったらしく、それをユージィンに伝えたのだ。


 「仕掛けてくる?」


 ただならぬ言葉に、さすがに前向きなセレスティアでも動揺した。


 だが、この言葉の意味は早々に知ることとなった。

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