第2話 初めての【交換】スキル
固有スキルを得た次の日、朝一番に冒険者ギルドにやってきた。
ちなみに僕が住んでいるのは、王国内で2番目に規模の大きい地方都市メイベルで、ここのギルドはメイベル支部である。
依頼書が貼られたボードに冒険者が集まり依頼を見つけては受付に持っていき、受注していく。
【初級水魔法】が使えるので、川の清掃の依頼を受けてみる。
受付は昨日と同じエリアさんだった。
「おはようございますエリアさん、この依頼を受けたいんですけど」
「おはようございます、クラウスさん。それではカードをお願いします。……受注手続が完了しました。カードをお返しします。初依頼ですね、危険はないと思いますが、気をつけてくださいね」
「ありがとうございます。では行ってきます」
依頼書の指定場所で、『ウォーターボール』を使って汚れを落としたり川のゴミを拾い集めて依頼を終える。
依頼人である役所の担当者に確認をお願いして、現場を見てもらう。
「ほう、綺麗に清掃できておるな。もしかして水魔法が使えるのか?」
「ええ、初級ですが」
「だいたい駆け出しの冒険者はこの手の依頼を嫌がるんじゃ。冒険者になるからには多かれ少なかれ貴重な魔物を討伐して名を上げたいとか、S級まで上げて貴族の仲間入りをしたいとか、野望を持ってるもんじゃろ。それがギルドの規定だから仕方なく受けて適当に誤魔化す者も多いんじゃ」
「……」
「その点お主はきっちり依頼をこなしてくれたからの。感謝を言おうと思ってな」
「そうなんですね……。そんなこと思ってもみませんでした」
「まあ、年寄りの独り言じゃよ。ほれ、依頼の確認書にサインしたぞ、持っていきなされ」
「ありがとうございます」
ギルドの受付でエリアさんに確認書とシビルカードを渡して報酬を受け取る。
「初依頼が無事に終わってよかったですね。他に依頼を受けていかれますか? 特になければ常設依頼も見てみたらいいですよ。常設依頼もランクアップに必要な依頼の件数に含めることができますから。でも、常設依頼だけでは規定の依頼数を満たせませんから注意してくださいね」
「わかりました。ちょっとそれも見てみます」
常設依頼の貼られているボードに移動して見てみると、僕にちょうどいい依頼があった。
それは、薬草の採取依頼だ。
F級なので一番採取が簡単なヒール草だ。
何でちょうどいいかっていうと、僕の母親が薬屋に勤めていて薬草の採取に小さい頃から連れて行ってもらっているからだ。
この辺なら自生している場所もよく知っている。
ヒール草は初級の錬金術師でも作成可能な HPポーションの原料であり、常に需要がある。
依頼内容は10束以上の納品。
頑張れば一日かけて100束くらい採取できなくもない。
そうすると、10束ずつ分けて納品すれば依頼数を簡単に稼げるから常設依頼だけでは依頼数を満たさない規定にしているのか。
常設依頼は特に受注手続はいらないので、そのままヒール草の採れるラークの森へ向かう。
ラークの森はメイベルの東に広がる森だ。
ここにはほとんど魔物がいない。
いたとしても成人なら簡単に倒せるような魔物ぐらいだ。
というわけで、サッサとヒール草を採取していく。
途中でスライム1体に遭遇する。
ちょっと大きな石ぐらいで青く透明なぽよぽよした物体だ。
体の真ん中にある小石ほどの核が弱点なので、装備している鉄の剣をスライムの上に振り下ろし攻撃する。
3回くらい攻撃したあたりで核が真っ二つになり消滅した。
魔物は倒すと必ず魔石を落とす。
魔石は魔道具の動力源になりギルドで買い取ってもらえる。
あとドロップ品も出ることがあるが、スライムの場合はスライムの粘液だ。
ありふれた素材なので買い取り価格は安い。
今回はドロップしなかった。
【ドロップ率半減】のせいだろうか。
夕方まで採取を続けて、30束ほどヒール草を採ってからギルドに納品に行く。
あれから魔物には遭遇しなかった。
ギルドの納品窓口で納品し納品書を受け取って受付に持っていく。
報酬は、ヒール草10束あたり銅貨2枚。
30束なので、銅貨6枚だ。
銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨の順に価値があり、それぞれ10枚で次に高い硬貨と同じ価値になる。
◇◇◇
ギルドを出て夕方の人混みの中、家に帰ろうとすると前から来た人を避けきれずぶつかってしまう。
「あっ、すみません」
「ちっ、てめえ気をつけろよ!」
振り向いてぶつかった人を見ると、そいつのステータスやスキルが見えた。
ん? てことは悪意をもってぶつかってきたってこと?
これは【交換】スキルを試すチャンスなのでは?
いや、でもちょっとぶつかった程度でそんなことをするのもな……
なんて思ってると、そいつの所持金が見えてきた。
僕の所持金と同じ額だ。
とっさにポケットに手を入れると財布がない。
こいつスリか!
追いかけようかと思ったが、もし逃げられて視界から消えられたらスキルが使えない。
声をかけるのはやめてスキルの実験台にしてやろう。
向こうは僕がスリに気づいていないと思っているのか、悠々と歩いている。
さて、何を交換してやろうか。
スキルによると、所持金同士も交換できるようなのですぐに取り返せるが、お金はまた稼げばいいから今回はパスだ。
……よし、これに決めた。
【交換】スキルを発動する。
成功したっぽい。
スキル発動を念じるだけで発動時に光を発するとかなかったので、外から見たら何も起こっていないように見えるだろう。
地味だ。
バレにくいからいっか。
で、交換した結果は次のとおりだ。
MP:20/100 (←20/50)
速さ:51 (←34)
スキル
【速さ上昇Ⅴ】(←【最大MP半減】)
【最大MP半減】と交換したスキルは【速さ上昇Ⅴ】で、速さを25%上昇させる効果だ。
僕のもつ【速さ半減】が50%減少で、両方足して元の速さから25%減少で済んでいることになる。
そして、念願のMPが100に戻ったぞ‼
◇◇◇
(今日のやつはスリやすかったな。こっちから軽くぶつかってみたが、向こうから謝ってきたし、少し凄んだらあとは黙って俺を見送っているだけだったからな。楽勝だぜ)
男は、スリや空き巣の常習犯だった。
子供のころから足が速く大人顔負けの速さだった。
あるとき盗賊団にスカウトされ窃盗の手口を覚え、構成員となる。
本人も働いて稼ぐよりこちらのほうが楽だと思い盗賊団に付き従って窃盗を繰り返していたが、盗賊団は王都から派遣された騎士団により壊滅。
かろうじて逃げおおせた男は、顔を覚えられる前に各地を転々としてスリや空き巣を繰り返していた。
しかし、クラウスから盗んだあと少しして男は自分の体に違和感を覚える。
(最近【隠蔽】や【探知】の持続時間が短くなった気がする。それに少し動きが鈍くなった気もする)
その後、男は別の都市でスリを行った際に衛兵から逃げきれず捕縛されることになる。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
F級だと子供のお小遣いよりも多く稼げるかな、という感じです。
クラウスは実家暮らしなのですぐには困りませんが……
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