第29話 【殲滅の力】について考察してみた
5日目1
―――ピロン♪
【おはようございます】
【今日も【殲滅の力】を使用して、ナナの力を解放して下さい】
残り16時間28分15秒……
現在004/100
目が覚めると、すっかり見慣れたポップアップが立ち上がっていた。
ちなみにこのポップアップ、あくまでも俺が目覚めた後に立ち上がるらしく、今日までのところ、目覚まし代わりに仕えそうな兆候は感じられない。
“現在”の横の数値、今朝は004/100になっている。
この数値、どうやら昨日の朝、俺が考察した通り、【殲滅の力】の累積使用回数で間違いなさそうだ。
そして最大の謎は、二行目……
【今日も【殲滅の力】を使用して、ナナの力を解放して下さい】
ナナの力って何だ?
それにそれを解放?
文面を文字通りに解釈した場合、少なくとも次の二通りが考えられる。
1.俺が【殲滅の力】を使う事で、ナナの中に溜まっていた何かの力がガス抜きみたいに抜けて出る。
2.俺が【殲滅の力】を使う事が、ナナが何かの力を使えるようになる条件を満たす事に繋がる。
どっちも、それらしい解釈に思える。
と言う事は、“現在”の横の数値――今朝の時点で004/100――が意味するのは、100回俺が【殲滅の力】を使用する事で、ナナの中に溜まった何かの力が全部抜け切るのか、ナナが新しい何かの力の使用条件を満たすって事になるけれど。
う~ん、分からん。
かと言って、気軽に誰かに相談出来る話でも無いしな……
俺としては、どちらかというと、2であって欲しい。
もし1が正解だった場合、今、ナナが滅茶苦茶強いのは、何かの力が溜まっている結果で、俺が100回【殲滅の力】を使えば、その力が抜けきって、単なるぼんやりしているだけの美少女に成り下がってしまうかもしれないし。
朝のまどろみの中、ぼんやりとそんな事を考えていたけれど、やがて俺には、この件に関して全く選択肢が存在しない事に気が付いた。
確か一日一回、【殲滅の力】を俺が使わないと、俺が死ぬって
つまり、この先の結果がどうあれ、俺は少なくとも100回、三ヶ月半、毎日どこかで【殲滅の力】を使い続けないといけないという事だ。
朝から少し憂鬱な気分になってしまったけれど、今日はとにかく、【黄金の椋鳥】の連中との“仲裁”仕切り直しの日だ。
上手くいけば、最低、俺の
少し前向きな気分になった所で、俺はベッドから起き上がった。
朝食を摂るため、ナナと一緒に階下に下りて行った俺は、ゴンザレスに声を掛けられた。
「カース、聞いたぞ? お前、昨晩魔族とやりあったらしいな」
「やりあった?」
やりあったというか、一方的に絡まれて、殺されそうになって、【殲滅の力】でやっつけはしたけれど。
しかしどうしてゴンザレスは、俺が昨日魔族に襲われたのを知っているのだろうか?
「昨晩、ウチに飲みに来た連中が教えてくれたぜ。カースっていう冒険者が、魔族とやりあって、血まみれになった深淵騎士団の副団長を抱えて高台から下りて来たって」
昨晩……
夜の11時前、俺の部屋にギルドからの書状を持ってきてくれた時には、ゴンザレスはそんな話していなかった。
俺はゴンザレスに言葉を返した。
「やりあうも何も、東の高台でいきなり魔族に襲われたんだ。そこに偶然居合わせたイネスさんが、俺を助けてくれただけだ」
「なんでお前を助けた副団長が血まみれでお前に抱えられていて、助けられたお前がぴんぴんしてるんだ?」
「実は俺にもよく分からないんだ。イネスさんが魔法みたいなの使った瞬間、俺も気絶してしまったらしくてさ。気付いたら魔族が消えていて、イネスさんが血まみれで倒れていたんだ。で、彼女を抱えて急いで街まで戻って来たってわけさ」
俺は、今日ベネディクトやイネスから改めて事情を聞かれた時のために用意しておいた“事の顛末”を披露してみた。
「なるほどなぁ……」
ゴンザレスは俺の説明に、一応納得してくれているようであった。
俺はココでベネディクトが昨晩、イネスが目を覚ましたら事情を聴かせて欲しいから、宿で待っていてくれと話していた事を思い出した。
「そうそう、おやじに頼みがあるんだけど」
「ん? なんだ?」
「実は昨日のその件で、ベネディクトっていう司祭様から事情を聞きたいから宿で待機していて欲しいって言われているんだ。だけど、今日は朝9時からギルドで【黄金の椋鳥】の連中との“仲裁”の予定が入っていてさ。ほら、おやじが昨日届けてくれた封書」
ゴンザレスが思い出したような顔になった。
「ああ、あれやっぱり“仲裁”関係の呼び出しだったんだな」
「まあな。それで俺が出掛けている間に司祭様から連絡があったら、その辺の事情、伝えて置いて欲しいんだ」
「分かった。任せときな」
朝食を済ませた俺とナナは、冒険者ギルドに向かうため、宿屋『無法者の止まり木』を出た。
一瞬、【黄金の椋鳥】の連中か、あの『ござる』野郎が俺達を待ち伏せしていないか警戒してしまったけれど、少なくとも俺的には異常を感じ取れない。
俺は隣のナナにそっと囁いた。
「昨日の『ござる』野郎か、【黄金の椋鳥】の連中に気が付いたらすぐに教えて」
ナナがコクンと頷いた。
「任せて……」
幸い、冒険者ギルドへの途上、やつらと遭遇する事は無かった。
予定通り、朝の9時前にギルドに到着した俺とナナは、ギルド職員の案内で、
俺とナナが入室した時、既に【黄金の椋鳥】の連中は席についていた。
マルコが俺に嫌な笑みを向けて来た。
「よぉ、カース、昨夜は大活躍だったみたいじゃねぇか?」
大方ゲロンあたりから、昨夜の騒ぎについて聞いたんだろう。
耳の早い奴だ。
俺は敢えて無視して、ナナと並んで着席した。
ほどなくしてギルドマスターのトムソンとバーバラがやって来た。
二人が俺達と向き合う位置に座り、中断状態だった“仲裁”が再開された。
まずトムソンが口を開いた。
「色々ばたばたしていて、お前達の“仲裁”の予定を狂わせてすまなかった。前回はカースの話を聞いたから、今回は【黄金の椋鳥】側の言い分を聞こう。では……」
トムソンが言い終わる前に、ユハナが口を開いた。
「お待ち下さい。実は私達、あれからカースさんと色々話し合いをしたのです」
「話し合い?」
トムソンが怪訝そうな顔になった。
というか、俺もその話は初耳だ。
なんだよ、話し合いって?
抗議の声を上げかけたところで、ユハナが言葉を続けた。
「昨日、私達はカースさんからある“依頼”を受けました。彼が言うには、何者かに尾行されている。その尾行者を捕えて連れて来てくれれば、“仲裁”は取り下げるし、また皆で一緒にパーティーを組む事にする、と」
ユハナの言葉を聞いた【黄金の椋鳥】の連中が、うんうん、とわざとらしく頷いている。
「ほう……」
トムソンの目が細くなった。
バーバラは、ほら言わんこっちゃないって顔をしている。
どうでもいいけど、
俺はユハナを睨みながら口を開いた。
「確かにこいつらに俺の尾行者を見付けて来いって話しましたが、必ず“仲裁”を取り下げるとか、もう一度一緒にパーティーを組むとか、そんな話はしていません。せいぜい、考えてやってもいいって言っただけです」
「あら?」
ユハナが悲し気な顔になった。
「カースさん、昨日と微妙にお話のニュアンスが変わっていないですか?」
「話のニュアンス変えているのはお前等の方だろ!? それにあの『ござる』野郎、はっきり言って、俺はお前らの差し金だと思っているんだからな!」
思わず声を荒げてしまった俺をトムソンが制した。
「落ち着け、カース。まずはその尾行者の話を聞こうじゃ無いか」
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