クリスマスの作戦準備
はつせ 午前零時十五分
「連絡機、ホバリング中!」
「ワイヤ下ろせーッ!」
「了解」
「書簡ケース、固定完了!」
「ワイヤ引き上げ開始せよ!」
密封書簡を入れた筒がヘリコプターの機中に入ると、ヘリコプターは最大速力で「はつせ」の上を去って行った。
「君たち、いつまで起きているつもりだね」
山口提督の声に、参謀達は慌てて振り返る。
「君たち……今のうちに寝ておかないと。三日後の零時からは多分徹夜だぞ」
「はい」
参謀達が自室に戻ってから、山口提督は指揮官室に入り、日記を出した。
「十二月二十四日
今日はクリスマスイブだというのに、キリスト教徒が多いマカスネシア連邦で反乱が起きた。反乱軍が何を目的にしているのかは、皆目見当もつかない。私たちは何を見せられているのかは、まだわからない。しかし私は、「はつせ」が戦うかもしれなかった八十数年前の日々と、同じものを見ているのかもしれないと思う。ただ漠然とした不安は必ずしも混沌に変わるわけではない。私たちは希望を捨ててはならない。
しかし、我が前を照らすはずの希望は時として我が身を滅ぼす会心の一突きとなりうるのだ。侮らないようにしなくてはならない。
サンタ・ベルナージに向かう「はつせ」にて記す」
そのノートを机の引き出しにしまうと、山口提督はベッドに入った。すぐに意識は落ち、気がつけば朝日が窓から差し込んでいる。そう思っていたが、なかなか眠れない。
「さすがにこんなときは眠れない、か……」
山口提督はそうひとりごち、ベッドで眠ろうとつとめた。しかし寝ようと思えば思うほど、目はしっかりと冴えてくる。
「こりゃあやばいな……あと三日しかないというのに」
そこで山口提督は頭の片隅に引っかかっていた事実――今回の政府の対応の思い切りがよすぎるという事実――について考えることにした。彼の頭の中では、いくつもの考えが浮かんでは消えていった。
「もしや反乱軍に負けるという茶番か?それで軍備増強をしようとしているのか?」
そんなことを思いつく頃には、山口提督の意識は夢の中へと飛び去っていた。
「うんりゅう」 午前一時十八分
「島谷艦長、出航準備完了です」
「よろしい、錨揚げ!舫解け!」
島谷艦長は「うんりゅう」が港を出ると全速力を命じ、「うんりゅう」は最大速力二十二ノットでサンタ・ベルナージへと驀進した。
「そろそろ
「音紋擬装開始!音紋セット、『おおしお』。速度十三ノットに落とせ」
「了解」
機関の回転を落とした「うんりゅう」は、旧式の潜水艦「おおしお」の航行音を流しつつゆったりとSOSUSラインを通過していく。おそらく他国の軍は「おおしお」が出撃したと思うであろう。
「『おおしお』はすでに隠してあるんだよな?」
「メコ一号水中ドックに隠してありますね」
「なら大丈夫だな」
島谷艦長と小松副長は「おおしお」の航行音のボリュームを少し上げさせた。
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