五 夢は醒め
はっと気がつくと、僕はベッドで寝ていた。体が重い…ような気がしたが、歳のせいだろう。夢の中で体が軽かったのもあるかもしれない。携帯電話を見ると、孫から電話があったようで、留守電にメッセージが残っていた。
「元気ですか、お
パシナ、という名前はあの日の憧れを思い出させる。僕の体の内側に熱いものが溢れた。
「ありがとう、ホノカ」
僕はそう言って、口の中が乾いていることに気がついた。冷蔵庫からペットボトルを取り出し、コップに水を注いで飲み干すと、少し乾いた口の中が潤った。
僕はだいぶボケてきたらしいが、まだ料理はできるし大丈夫だろう。ただ、あの日食べたライスカレーの味の出し方が、僕にはまだわからない。あの日に出会った人たちがいまなにをしているのかも、生きているのかもわからないのと同じようなものだと僕は思う。
「マルタは今、何をしているのだろう」
そんなことばかりが、今は僕の頭の中を忙しくしている。あの手紙はもうよれよれで、あじあのスタンプはとうの昔に色あせた。もうあれから八十年近く経っているというのに、未だに僕は鮮明な夢を見るのだ。あじあに乗った日の夢を。
こう日記に書きつけて、僕はふとあることに気づいた。僕はまだ、言うべきことを言っていない。
―ありがとう、あじあに乗った日よ。
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