誰かに捧げる愛情


さらに100人を超すであろう王族の配偶者たちの死を見届けた。

彼女たちは愛する家族のもとへ微笑んで向かっていった。



間違いなく、あの少女の言葉が彼女たちの死への恐怖を払拭したのだ。

私たちに、私と父には断頭台という一見残酷に見えるが一瞬で死なせてもらえる処刑など許されなかった。


深い穴の底に箱型の横穴が口を開けていた。

そこの中央の天井からぶら下がった鎖にまた跪いた状態でYの字に吊り下げられた。

私を運んできた兵士たちは外から入り口を塞いでいなくなった。

ドササッという重い音が繰り返されると一切音が聞こえなくなった。


生き埋め……


それが私に与えられた罰だというのか。

この空間に酸素はどれだけあるのか。

いつまで私の生命はもつのか。




ここに入れられる直前、私は遠目から傷付けた公爵令嬢を目にした。

簡素にみえる馬車の窓から、低めの花壇に植えられた花々に囲まれた車椅子に乗った令嬢はすぐに見つかった。

私が傷付けた公爵令嬢はとても美しかった。

そして令嬢の隣には幼馴染みだという青年がいた。

車椅子の彼女のために片膝をついて目線の高さをあわせ、優しい笑顔で接する青年は、立ち上がると私のいる場所を冷たくひと睨みしてから車椅子を自ら押して去っていった。


「彼は第一王子エマーソンだ。王太子だった彼は婚約者の令嬢が車椅子生活になると知るや否や王位継承権を放り出した。そしてコートレイル公爵家に入婿教育として入った。令嬢は車椅子で学園にも通い、入学以降一度も学年トップの座を明け渡したことはない」


学園の卒業と共に結婚式をあげるという。

私の手紙は令嬢ではなく彼が受け取ったという。

内容も彼が確認した。

だったら睨まれて、憎まれて当然だ。


王位継承権すら投げ出して愛を優先した元王太子と、自らの罪を忘れただけでなく更なる侮辱をもって傷付けようとした王太子わたし

どんなハンデを背負っても前向きで努力を惜しまない彼女を、学園長が「見習いなさい」というのも当然だ。


断頭台の上から私たちに恨みと憎しみをぶつけて愛する人のところへ向かった少女と、愛する人のためにすべてを投げ出した青年。


二人のように、誰かに捧げる愛情を知らない私が適うはずがなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る