神のみぞ知る
アーエル
『隣国に民に愛されし公爵令嬢あり』
『隣国に民に愛されし公爵令嬢あり』
そんな言葉を聞いたのは王城で開かれたパーティーでのことだった。
「それはどんな姫なのだ?」
「あ、ポーレッド王太子殿下」
令嬢たちの話を詳しく聞き出そうと声をかけると、令嬢たちは慌てて私にカーテシーを捧げる。
「ああ、挨拶はいい。それで隣国の公爵令嬢というのはどのような姫君だ?」
私の言葉にお互いの顔を見合わせているものの、誰一人として口を開かない。
私が幼い頃から人々に嫌われているのは自覚している。
だから、同腹・異腹の弟たちには幼い頃から婚約者がいるというのに、私は王太子でも婚約者がいない。
「その公爵令嬢のことを教えてもらえるかな?」
「いえ、私たちも詳しくは存じません」
「それでもかまわない」
私の言葉に困った表情で顔を見合わせる令嬢たち。
……腹が立つ。
「いつまで黙っているつもりだ」
脅すように尋ねると令嬢たちは青くなって慌てて頭を下げる。
「本当に私たちは何も存じません。ただ、私たちと同じ年頃で、以前この国に来られたことがあったそうです。そのため今日その令嬢をどなたか存じないかと思いまして」
「ええ、私たちも『その令嬢のように国民とはいかなくても、せめて領民には好かれるようになれ』と言われました。ですがどのようなお方なのか分からず」
令嬢たちがウソを
本当に知らないようだ。
「それはいつ誰に言われたのだ?」
「昨日の終業式に学園長からです」
「そうか、わかった」
私の言葉にカーテシーをしてすぐに離れていく。
昨日の終業式、式だけ出て長々とした話を聞いてムダな時間を過ごすだけで面倒だから、理由をつけて行かなかった。
そんな話をしていたのか。
そんな話なら誰に聞けばいいか分かっている。
私はその日のパーティーをそつなくこなし、翌日外交部の下っ端を数人脅して噂となった隣国の公爵令嬢の情報を奪い取った。
「これは面白い」
隣国の公爵令嬢は幼い頃から『傷物令嬢』といわれてきたらしい。
婚約破棄か何かで傷物と蔑まれる立場となったわけだ。
今では幼女趣味の民たちに股を開く淫乱娼婦に身を落としているのだろう。
外交官の口が重たいのもそれが理由か。
私はペンを手に取った。
淫乱に育った公爵令嬢を王太子妃にしてやるから引き渡せ。
その代わりに法外な持参金も寄越せ。
ほかにも見目麗しい『傷物令嬢』がいるなら引き取って後宮で愛妾にしてやろう。
そのほかにも様々な条件をつけた手紙を外交官に預け、急ぎで返信を持ってくるよう命じた。
ひと月後に届いた返信は、私からの婚約を無下に断る内容だった。
今度は断ったら開戦も辞さない旨をチラつかせてみた。
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